チャンピオンシップ 冬の移籍を振り返る③ 8位~1位編 - EFLから見るフットボール

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チャンピオンシップ 冬の移籍を振り返る③ 8位~1位編


24位~17位編はこちら

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【8位 バーミンガム】

IN
MFケリム・ムラブティ(←ユールゴーデン フリー)
OUT
DFダン・スカー(→ウォルソール 移籍金非公開)
MFヴィヴ・ソロモン・オタバー(→ポーツマス ローン)
FWニコライ・ブロック・マーセン(→ACホルセンス フリー)
FWオマー・ボーグル(→カーディフ→ポーツマス ローンバック)




昨シーズンまでのFFP違反、さらにそれによる移籍禁止期間中に選手を獲得したことによって、リーグから今シーズンの獲得選手数を5人に制限(+給与制限とローンフィーの支払い禁止)されているバーミンガム。夏にその内の4枠を使い、残った1枠にはベン・マーシャル(ノリッジ→ミルウォール)やイケチ・アニャ(ダービー)といったサイドのユーティリティプレイヤーへの関心が伝えられていたが、結果的には前目のポジションを全てこなすスウェーデン人、ムラブティをフリーで獲得することになった。

彼自身イングランドでのプレイ経験はなく、フィットするかは未知数な部分もあるが、この厳しい移籍制限下にあってスウェーデンリーグの若手トップ選手を獲得できたことは好意的に見るべきだろう。ここまで実にタイトなメンバー構成の中で驚異的な結果を残してきたギャリー・モンクにとっては、そろそろ選手たちの疲労も気になり始める頃で、ムラブティの獲得、そして長い怪我から戻ってきたアイザック・ヴァッセル、デイヴィッド・デイヴィスの復帰はとても心強い要素になる。

もちろん、最もファンをはじめとする全ての人々が胸を撫で下ろしたのは、チーム得点王、シェイ・アダムズが残留したことだ。今シーズンはここまでリーグ19ゴール(2/12時点)、9日のQPR戦では前半だけでハットトリックを達成した。

アダムズの特筆すべき点は、1月半ばごろから盛んにプレミアリーグのクラブからの関心が伝えられた中でも、決して動じずにチームへの忠誠を誓い続けたところにある。
もっとも、彼を放出したところで代わりの補強ができないため、バーミンガムがこの冬にアダムズを放出する可能性は最初からかなり低かった。それでも、アダムズは功名心に駆られて馬鹿げた行動に出るのではなく、自らの価値を証明し続ける道を選んだ。デッドラインデイ2日前のスウォンジー戦では2ゴール、デッドラインデイ後のフォレスト戦では後半追加タイムにPKを沈めると、ファンにとって何事にも替え難いほどのスペシャルなセレブレーションを見せ、その次のQPR戦では先に述べた通りの活躍である。


結局は、ハッピーエンドとしか言いようのない1月。ここで文章を締めくくることができればどれほどよかったかわからないが、そうは問屋が卸さない。

FFP違反によるバーミンガムへの制裁は、前述の移籍制限だけではない。今月中にEFLは、彼らに対し12ポイントの勝ち点剥奪を勧告することが濃厚となっている。

EFLが定めるFFPのルールを説明しよう。リーグに所属する全クラブは、3月1日までに直近3シーズンの財務諸表と、今年1年間の収支計算書を提出する必要がある。その数値が基準を下回っていた場合、3月31日までに財政面での安全を保証する今後2年間の財務情報を提出しなければならない。
赤字額の限度は1年間に平均1300万ポンド、つまり3シーズン合計では3900万ポンドとされているが、バーミンガムの数値はこれを700万ポンドほど上回っていると言われている。

さらに彼らは、昨シーズン終了後にEFLから「軽い移籍禁止処分」を受けている状況(これはチャンピオンシップの半数以上のクラブが同じ状態にあった)の中、ウニオン・ベルリンからDFクリスティアン・ペーダーセンを移籍金を払って獲得してしまった。
重要なのは、EFLは独立した組織ではなく、各クラブから代表者が集まって形成される集合体だということだ。今は選手を獲得してはいけないというルールを多くのクラブが守っている中で、抜け駆けのような形で主力級の選手を獲得してしまっては、同業他者からよく思われるはずもない。

このような事態には一切の前例がなく、バーミンガムに対する処分の話は、結局のところ全て憶測の域を出ない。ただ勝ち点剥奪処分に踏み切る噂は以前から根強く、9日の試合後にはBBCウェストミッドランズが12ポイントの剥奪が今のところ濃厚だと伝えた。

近日中に届くと見られるEFLからの処分勧告に対し、バーミンガムは届いた日から2週間以内に勧告を受け入れるか、勧告を拒否し事態をディシプリナリー・コミッション(リーグ、クラブの代表者に中立的な立場の第三者を加えたパネル)に持ち込むかの選択を迫られることになる。
一見すぐ勧告を受け入れるメリットがないようにも思えるが、制裁を拒否した場合、最終的に事態は裁判所にまで持ち込まれ長期化する可能性がある上に、特に大きな損失を出した16/17シーズンと17/18シーズンの数字が残ってしまい、新たな制裁や移籍禁止処分に繋がることまで考えられる。一方で今制裁を受け入れれば、過去2シーズンの数字で罰せられる可能性は今後無くなる上、移籍活動もこの夏からは通常通り行えるようになる。ただ、バーミンガムは現在8位でプレイオフ圏とは4ポイント差。仮にここから12ポイント引かれた場合、彼らは18位にまで落ちてしまう。

ファンの立場から見て不可解なのは、EFLがこの件について移籍制限の発表時以外一切公に声明を発表せず、事態の全容を不透明にしていることだ。
勝ち点剥奪という重大な処分さえ考えられる問題において、経緯であるとか、どのルールに抵触してこのような事態になっているのかということを、彼らは全く明らかにしていない。そもそもぺーダーセンの移籍が問題視され、獲得後も選手登録が許可されていないという情報をすっぱ抜いたのもバーミンガムファンのブロガーで、そのブロガーやミッドランズ地方のジャーナリストが常に一連の問題の第一報を報じている状態は、やはり異常である。

数ヶ月にも渡って給与未払いを続け、買い取り義務のあった移籍を放棄したようなクラブもある中で、なぜバーミンガムだけが極めて重い処分に罰せられるのか。そういった部分の明確な説明も、未だEFLは行っていない。もちろん最も責任があるのはルールを破ったバーミンガムなのだが、世界的に批判の多いFFPルール自体の正当性も含め、EFLには今後より芯の通った対応が求められる。




【7位 ダービー】

IN
DFアシュリー・コール(←LAギャラクシー フリー)
DFエフェ・アンブローズ(←ハイバーニアン フリー)
MFアンディ・キング(←レスター ローン)
OUT
DFアレックス・ピアース(→ミルウォール ローン)
MFジョージ・ソーン(→ルートン ローン)
MFジェイコブ・バターフィールド(→ブラッドフォード ローン)
MFジョー・レドリー(リリース)




距離にして約113マイル。ホームタウンも全く違えば戦うリーグも全く違い、通常であればなかなかシンパシーを抱くのは難しいチェルシーとダービーのファン同士だが、今だけは違う。フランク・ランパードの監督就任、メイソン・マウントとフィカヨ・トモリのローン移籍、遂には冬、アシュリー・コールの電撃加入。ブルーズの過去と未来が交錯するプライド・パークに、今や多くのチェルシーファンが暖かい目線を送る。

ダービーにとってのコール獲得の狙い。それは彼の持つ経験に他ならない。

今シーズンのダービーといえば、監督もさることながら、主力選手が軒並み若手選手で占められている点に大きな特徴を持つ。リーグ戦では21歳のハリー・ウィルソンが10ゴール、24歳のジャック・マリオットが7ゴール、25歳のトム・ローレンスが5ゴール、20歳のマウントが4ゴールと、チーム得点ランク上位5選手のうち4人が25歳以下(あと1人は4ゴールを挙げている29歳のマーティン・ワグホーン)で、この内ローレンス以外は、チャンピオンシップで主力としてフルシーズンを戦ったことがない。

ダービーというチーム自体、ここ数年は冬から春ごろにかけて失速を繰り返している中で、単純な戦力としてのプラスアルファ以外の部分でコールにかかる期待は大きい。もちろん、レギュラーを張るスコット・マローンのバックアップとしても、多くの一流クラブの左サイドを支配してきた彼の豊富な経験が役立つだろう。

一方で、ダービー全体のこの冬の補強を見ると、少なくない疑問点が浮かんでくる。

1月が始まる段階でのダービーのトッププライオリティは、センターバックとストライカーの補強に置かれていた。終わってみれば、2月にフリーとなったところを慌てて獲得したアンブローズの補強があったくらいで、両方のポジションがほぼ手付かず。特にセンターバックの補強が思うように進まなかったことに関しては、ランパード監督が記者会見ではっきりとその失望に言及したほどだ。


急遽獲得したアンブローズも、セルティックでの活躍はよく知られるところで、また12月まで所属していたハイバーニアンでも不動のレギュラーとして活躍していた選手ではある。足元の技術に優れている点も、ランパードのチームのセンターバックには望ましい要素と言えるだろう。だが、ダービーが彼をトライアルに招いたのは2月初めのことで、1月の補強失敗を受けて彼の獲得に乗り出したことは明らかだ。

若さと勢い、そしてウィルソンという特別な選手の力でここまで来ていると言ってもいいダービーは、今シーズンのリーグの中でもかなりオーバーパフォーミングの部類に入るチームである。それ自体は褒め称えるべきことだが、主に精神面での役割が期待されるコールの獲得を除けば、1月にその地場固めを行うことがまったくできなかった。主力にローニーが多い現状を考えれば、あからさまに来シーズンに向けての戦いにシフトすることも考えづらく、ランパード監督は難しいシーズン後半戦を強いられることになりそうだ。




【6位 ブリストル・シティ】

IN
MFケイシー・パーマー(←チェルシー ローン)
FWアントワン・セメンヨ(←ニューポート ローンバック)
OUT
FWショーン・マッカルスキー(→フォレストグリーン 移籍金非公開)




エイデン・フリント、ボビー・リード、ジョー・ブライアンといった主力中の主力を一気に引き抜かれた夏に比べれば、この冬のブリストルは極めて平穏な移籍市場を過ごすことができた。その代わり、盛り上がりはピッチ外からピッチ内に場所を移し、チームは破竹の勢いで連勝を重ねているというのだから、彼らにとっては願ったりかなったりである。

唯一の動きとなったのはブラックバーンからのローンスイッチとなったケイシー・パーマー。このパーマーの補強がまたチームにとっては大きく、加入直後のボルトン戦で途中出場から決勝弾をマークするなど、手薄だった攻撃陣に新たなオプションを加えた。ブラックバーンでは最も得意とする10番のポジションにブラッドリー・ダックがいたため、本職ではない位置での起用が多かったパーマーだが、この移籍によって彼自身も改めて実力をアピールする機会を得た格好だ。

ファンの中には、ストライカーの補強を実現させられなかったことを不満がる声もある。実際にヴィラのスコット・ホーガン獲得レースではシェフィールド・ユナイテッドに敗れ、リー・ジョンソンは他にも何人かの選手に対し触手を伸ばしていたようだが、その動きは実を結ばなかった。

だがそれ以上に、現有戦力を全員残すことができたプラス面を上に見たい。
数多くのプレミアリーグのクラブから魔の手が伸びていることはもはや公然の秘密になったロイド・ケリー、同じくプレミアリーグのクラブから狙われていたカラム・オダウダ、チェルシーが熱心に追いかけ今冬はオファーもあったと言われるアントワン・セメンヨ。彼らが皆、今もまだブリストル・シティの選手であるという事実だけで、あの忌まわしき夏よりはずっとマシだとは考えられないだろうか。

実際のところ、ここ数シーズンでの大幅なチーム強化の影響で、彼らにはFFPという厄介な問題が付き纏っている。もしこれ以上の補強を望むのであれば、上記の内の少なくとも誰か1人を売却して、移籍金を得る必要があったことは明らかだ。

フリントの穴を新加入のアダム・ウェブスターが埋め、ブライアンの穴をユース出身のケリーが埋め、リードの穴を今季9ゴールのファマラ・ディエジュのみならず中盤の攻撃的な選手まで含めて埋めてきた結果として、今の快進撃がある。それでもシーズン序盤から中盤にかけてのパフォーマンスは、まさにチームの屋台骨を一気に失った影響としか思えないような低調さで、ようやく固まりかけてきた土台を崩したくないとリー・ジョンソンが考えるのは至極当然のことだろう。

もちろん、直近の公式戦9連勝、その間わずか3失点という数字は説明の必要がないほどに圧巻の一言。ストライカーの枚数はまったく気にする必要がないと言えば嘘になるが、このタイミングで移籍市場が訪れた以上、最も理に適った選択肢を取ったと見るべきだ。




【5位 ミドルズブラ】

IN
MFジョン・オビ・ミケル(←天津泰達 フリー)
MFジョージ・サヴィル(←ミルウォール 700万ポンド、完全移籍移行)
MFラジフ・ファンラパラ(←ハダースフィールド ローン)
OUT
GKコナー・リプリー(→プレストン 移籍金非公開)
DFダニー・バート(→ウォルヴズ→ストーク ローンバック)
MFグラント・レッドビター(→サンダランド フリー)
FWマルティン・ブレイスワイト(→レガネース ローン)
FWジョージ・ミラー(→バーンズリー 25万ポンド)




まず言うことがあるとすれば、攻撃力への不安が内容からも結果からも露骨に出ている中で、ストライカーの補強がなかったことを無視するわけにはいかない。

補強話自体はあった。ただ狙っていた選手はといえば、ウェストブロムに行ったジェイコブ・マーフィーや、ハルのカミル・グロシツキなどウインガーばかり。ましてマーフィーはプレミアで残留争い中のライバル・ニューカッスルの選手であるし、オファーを出したとの話があるバーミンガムのストライカー、アイザック・ヴァッセルにしても、相手方の代わりの選手が取れないという状況を考えれば、200万ポンドでは足りないことくらいわかりそうなものである。

それどころか、既存のストライカーを放出しようとする動きさえあった。今シーズンは最前線で使われることも多かったマルティン・ブレイスワイトは2年連続の1月ローン放出となり、昨シーズンの負傷後十分なチャンスが与えられないでいるルディ・ゲステードは、直前で本人が拒否したもののミルウォールへのローンがクラブ間合意していた。また戦力として計算できるかは別として、アシュリー・フレッチャーも代役が獲得でき次第ローンで出される手筈が整っていたという。

やはり、トニー・ピューリスは何も変わっていない。これを「信念がブレていない」とするか、「過去の失敗から何も学んでいない」とするかは各々の趣味に任せる。だが現実問題として、ボロの攻撃陣は昇格を目指すチームにしてはあまりにも貧弱で、オプションに欠ける。

現在のボロの基本システムは5-4-1。一応両ウイングバックは攻撃参加もするが、その顔ぶれが右ライアン・ショットン、左ジョージ・フレンドということを考えれば、紛れもなく守備重視の5バックだ。

中盤の位置に入るのも、若手のルイス・ウイングがいれば自由を与えられるくらいで、基本的には全員センターMFの選手。ここでなぜ純粋なウインガーのファンラパラを獲得したのかという疑問が生まれるのだが、それは一旦考えないことにしよう。そうなれば当然、1トップの選手は基本孤立しながらも、ポストプレーをこなして攻撃の起点となっていく役割が求められる。

従って、長身でフィジカルやボールキープ能力に長けるジョーダン・フーギルが、スピードを生かした裏への抜け出しや決定力という点に一日の長を持つブリット・アソンバロンガを抑えて、現在はレギュラースターターの座を掴んでいる。もっとも、そんなバックグラウンドなど説明せずとも、どちらの特徴の方が「ピューリスっぽい」かは一目瞭然なのだが。

言うまでもなく、この2人は共に素晴らしいストライカーである。共に2部での実績は十分で、チームにもたらす貢献も大きい。特に夏にウェストハムからシーズンローンで加入したフーギルには、ミドルズブラ出身のローカルボーイで、グレン・ホドル・アカデミーやノンリーグでのプレイを経て心のチームでのプレイを実現させたという美しい物語もある。

ここで言いたいのは、なぜこの2人をゲームの最初から同時起用するという選択肢を選ばないのかという点だ。

我々がよく知るフーギル、アソンバロンガのプロフィールを基に考えた場合、この2人が2トップを組めば、少なくともチャンピオンシップ内においてボロの攻撃面を「恐るるに足らず」とみなすような監督はどこにもいない。仮に守備を固める5-3-2のシステムだったとしても、この2人だけで何とかしてくれそうな気配もあるし、そこに成長著しいウイングや昨季ミルウォールで10ゴールのサヴィルが絡んでいけば、間違いなく今以上に相手に脅威をもたらすことができる。

2トップを試す必要がないほどに今のシステムが上手く機能しているのなら話は違う。しかし今年に入ってからの9試合で完封がたったの1回ということを考えれば、守備最優先のシステムを採用しているにしては物足らず、そのしょっぱい内容にファンからの不満が出るのも当然である。

しかしピューリスはこの現状に満足しているのか、システムをいじる気配もなく、アソンバロンガを「点が欲しい時の交代要員」という立ち位置から動かすつもりもないようだ。
それもそのはずで、仮に2トップにしてアソンバロンガを先発起用した場合、実質構想外のゲステードの存在を抜きにすれば、もう控えのストライカーは負のオーラを纏うフレッチャーしかいなくなってしまうのだ。

もしもう1人、十分な実績を持つストライカーをこの1月に獲得できていたら、遠からずピューリスは2トップのオプションを試していたかもしれない。だがそれも、今となってはたらればの話。
ジョン・オビ・ミケルが実績を裏付けるパフォーマンスを早速見せている一方で、モー・べシッチがベンチに追いやられた豪勢な中盤のメンバー構成とは裏腹に、吹けば飛んでいってしまいそうなストライカー陣の薄さが、ボロをプレイオフ圏外に追いやったとしてもまったく驚きはない。




【4位 ウェストブロム】

IN
DFメイソン・ホルゲイト(←エヴァートン ローン)
MFステファン・ヨハンセン(←フルアム ローン)
MFジェイコブ・マーフィー(←ニューカッスル ローン)
MFジェフェルソン・モンテーロ(←スウォンジー ローン)
OUT
MFハーヴィー・バーンズ(→レスター ローンバック)
MFオリヴァー・バーク(→セルティック ローン)
FWバカリ・サコ(→クリスタルパレス フリー)




ドリブル、パス、創造性、フィニッシュ…。さほど前線に困っているわけでもないレスターによる、無情なハーヴィー・バーンズリコールの決断が、ウェストブロムからどれほどのものを奪い去ったのか。それは「あわよくば完全移籍も…」という一抹の期待を抱いていたファンの心情面まで含めれば、なんとも筆舌に尽くしがたいものがある。

最後にバギーズの選手としてプレイした元日の試合までに、バーンズはリーグ戦で9ゴール6アシストを記録していた。シーズン開始前まではメイソン・マウント、ハリー・ウィルソン、ベン・ウッドバーンといった同ポジションの他のローニーたちに注目を奪われていたが、蓋を開けてみれば昨シーズンのバーンズリーへのローン時からの成長を十分すぎるほどに見せ、一気にウィルソンらとスポットライトを分け合う存在にまで上り詰めた。

でもそれは、あくまで「来シーズンのブレイク候補」という評価。まさかレスターが1月にローンバックしてくるとは、ウェストブロムにとっては寝耳に水の話だったに違いない。それだけ傑出した活躍をしていたということなのだが、バーンズへの依存度が高かったチームは、たちまち抜本的な作り直しを迫られることになった。

1月に入ってすぐ獲得していたホルゲイトを除けば、残りの3人はいずれもデッドラインデイに獲得した選手。バーンズがリコールされたのが1月11日だったことを考えれば、彼の退団が急なことで、その対応に苦心したことが伺い知れる。当初はバーンズがやっていた左に復帰したてのドワイト・ゲイルを置いていたが、クリエイタータイプのいない前線は底が知れており、中盤に入った若手のレキーム・ハーパーの奮闘が辛うじて目立つ程度だった。

そうしたデッドラインデイに獲得したのがヨハンセン、マーフィー、モンテーロの3人。もう1人、サンダランドのブライアン・オビエドもローンでの獲得が決まりメディカルチェックまで済ませていたが、書類の提出が間に合わず頓挫した。しかし彼の主戦場であるレフトバックにはキーラン・ギブスという不動のレギュラーがいて、オビエドの獲得目的は左サイド全体のバックアップ程度のものだったとみられることから、これはさほど大きなダメージではないはずだ。


ただ獲得した3人の顔触れを見ても、これでバーンズの穴が埋められるかは甚だ疑問で、数で勝負した感が否めない。敢えて言うなら、この3人のいいところを合わせてやっとバーンズの代わりになるくらいなものではないのか。中心中の中心選手を突然引き抜かれたかわいそうなクラブへの特例措置として、EFLが代わりに取った選手の3人同時出場を認めてくれるようなことがあれば別だが、そんなことは100年待っても夢のまた夢だ。

言ってしまえば、あのバーンズの穴を完璧に埋める存在など、いるわけもないというのが実際のところだ。その能力は言うまでもないが、同時に彼の存在は、英国人を中心に構成され、ユースで長い間やっていた監督のチームらしく全体的に若い今のバギーズにぴったりとフィットしていた。故にチーム全体の失望も大きい。

その上で心配なのは、バーンズがリコールされる可能性を、リクルートメントチームがどれほど真剣に考慮していたのかという点だ。先にも述べたように、彼が退団してから3人の補強を行うまでの時間があまりにもかかりすぎており、やや危険な兆候が垣間見える。

夏の補強も含め、今シーズンのバギーズは、新戦力全員をイングランド国内のチームから獲得している。ムーア監督の方針なのか、それとも海外スカウト網の不足などやむにやまれぬ事情があったのかはわからないが、国外に一切目を向けていないということは、イングランド国内のスカウティングは少なくともかなり進んでいたと見ていいだろう。

ならば、バーンズ級の選手が市場に転がっていないことや、バーンズ再ローンの可能性が極めて低いことくらい、すぐにわかったはずだ。おそらくこの補強の遅れは、レスターが再びバーンズをローンに出す可能性を直前まで探っていたからなのだろうが、それは少々楽観的が過ぎるというものである。ならば早めに次の手を打ち、国外のリーグで燻っている実力者にスカウトを送ったり、もう少しバーンズにタイプの近い選手を探したりした方が、チーム作りは円滑に行ったに違いない。

結果として実力者3人を獲得するにはしたが、ヨハンセンは適正ポジションがバーンズとは違う上にマッチフィットネスも低い状態、マーフィーも右サイドが主戦場で選手としてのタイプが違い、唯一左サイドのモンテーロはそもそも慢性的な怪我でフル回転がまったく見込めず、それぞれが曰くつきの補強になってしまった。実際、メンバーの名前だけを見ればリーグ最強クラスで、これでもどうにかなる可能性はある。しかし攻撃面での強みは間違いなく変わってしまうし、このシーズンの佳境における攻撃陣の再編成を、新米監督のムーアがスムーズに行える保証はない。

また怒涛のローン獲得によって、イプスウィッチ同様にチーム内のローン選手数が6人になってしまったため、誰か1人はマッチデイスカッドに入れない状況が生まれてしまった。パフォーマンス面から、十中八九この煽りを食うのはマンチェスター・シティから夏に加入したトシン・アダラビオヨになっていくと思われるが、ダイヤの原石を多く抱えるシティの心証を悪くしてしまうことも得策とは思えず、場当たり的な補強戦略が裏目に出てしまっている。

もちろん、最大の懸案事項だったライトバックにホルゲイトを補強し、強みの1つにまで変えてしまった点など、褒めるべき部分もある。しかしこのホルゲイトの背番号が68番、またマーフィーの背番号が70番となっていることからもわかるように、ウェストブロムはホルゲイト獲得以前に既に67名の選手を出場可能リストに登録しており、「何かあれば若手で凌げるだろう」という姿勢が見えることも問題だ。

個人的には、バギーズの動きからはやはりどこか楽観的な考え方が垣間見え、それがシーズン終盤の昇格争いで大きく物を言う可能性があるのではないかと思えて仕方ない。バーンズのリコールで失った最大のもの、それが「昇格の望み」とならないように、ここからが真価の問われる時期である。




【3位 シェフィールド・ユナイテッド】

IN
MFオリー・ノーウッド(←ブライトン 200万ポンド、完全移籍移行)
MFキーラン・ダウエル(←エヴァートン ローン)
FWギャリー・マディーン(←カーディフ ローン)
FWスコット・ホーガン(←アストンヴィラ ローン)
OUT
DFダニー・ラファ―ティ(→ピーターバラ ローン)
MFライアン・レネット(→ミルウォール 100万ポンド、完全移籍移行)
MFリー・エヴァンズ(→ウィガン 移籍金非公開、完全移籍移行)
MFベン・ウッドバーン(→リヴァプール ローンバック)
FWリオン・クラーク(→ウィガン ローン)




何とも強烈な意思表示となった1月だった。イングランド黄金世代の攻撃を司るダウエル、キャリアの再生に並々ならぬ闘志を燃やす快速ストライカーホーガン、そしてかつて最大のライバルで前線を張り、ビリー・シャープを「太った子豚」と罵ったことはあまりにも有名なマディーンまでをも獲得した決意の補強は、彼らの今シーズンの昇格にかける意気込みを如実に示している。

クリス・ワイルダーが実にしたたかだったのは、これほどの実力者たちを手に入れながらも、どの選手も必ずリーグデビュー戦ではベンチからスタートさせ、現有戦力への信頼を同時に示したことだ。
特に今やシャープ、デイヴィッド・マッゴールドリック、コナー・ワシントン、マディーン、ホーガンと錚々たる布陣となったストライカーに関しては、普通なら不満の1つ2つ出てきてもおかしくないところが、現状は実に健全かつレベルの高いポジション争いが行われている。

昨今のクラブには珍しく、全権監督という立場で移籍活動の全てを主導するワイルダーは、古き良きフットボールを愛する人々にとっての希望の星と言っていい存在だ(やっているフットボールそのものは「古き良き」とは真逆だが)。彼はこの移籍市場を迎えるにあたって、獲得したい選手を「タイプの異なる2人のストライカーとアタッキングMF」だと言っていた。

…完璧である。

昨シーズン前半の快進撃を支えたリオン・クラークの放出は普通ならば痛手だが、マディーンとホーガンが入った今ならもはや痛くも痒くもない。それでいて、本当に出していけなかったジョン・フレックのような選手への誘いは、ウェストハムからのオファーにも毅然とNOを突き付け、結果的にアップデートしかない移籍市場を終えた。

今回の1月、最も成功したチームを1つ挙げるとすれば、それはこのシェフィールド・ユナイテッドである。

リーズほどではないにしても、非常に流動的な動きで相手を惑わすワイルダーのフットボールには、高いインテンシティが必要とされる。そして昨シーズン、昇格組ながら前半戦首位にも立ったチームが後半大失速した要因には、どうすることもできない選手層の薄さがあったことは言うまでもない。

そして今シーズン、彼らはもう1段上のステージに足を踏み入れようとしている。もう言い訳はできない。ワイルダーは自らこの補強で退路を断ち、自動昇格に照準を定めたと言ってもいいだろう。舞台は整った。




【2位 リーズ】

IN
GKキコ・カシージャ(←レアル・マドリー フリー)
MFユーナン・オケイン(←ルートン ローンバック)
OUT
GKウィル・ハッファー(→バーネット ローン)
DFトム・ピアース(→スカンソープ ローン)
DFコナー・ショネシー(→ハーツ ローン)
MFサム・サイース(→ヘタフェ ローン)
MFルイス・ベイカー(→チェルシー→レディング ローンバック)


12月、サム・サイースの驚きの移籍希望から幕を開けたリーズの移籍市場は、1月中旬のスパイゲート事件、そしてデッドラインデイのジェイムズ移籍を巡ったゴタゴタに至るまで、とにかく波乱万丈の中で過ぎ去っていった。

21歳のダニエル・ジェイムズは、今後もこの世界で最も奇妙なフットボールワールドの中で、数多もの苦味を噛みしめていくことだろう。とはいえ、2019年1月31日、リーズ・ユナイテッドの施設で過ごしたこの数時間は、いつまでも印象深い記憶の1つとして彼の胸の中に残り続けるはずだ。

お馴染みのフィル・ヘイ記者が、ジェイムズ移籍不成立の裏側を詳細に綴った記事を“YEP”に掲載している。スウォンジーの欄でも記したように、移籍交渉中はスワンズの態度が終始一貫せず、最終的にも相手ボード内の誰かの突然の心変わりによって土壇場でちゃぶ台返しを喰らってしまった。移籍希望を提出し、もうすっかりリーズの選手になったつもりでビエルサの指導や優勝争いに思いを馳せていた(当然だ)ジェイムズのことを考えれば、これほど不愉快な気持ちになる話もない。


記事内にもあるように、リーズは本当に熱心にジェイムズの移籍交渉を続けていた。そもそもそれが露見したのが、スパイゲート後の例の記者会見でマルセロ・ビエルサのパソコン上にジェイムズのプレイをまとめた動画が確認されたことだったことからもわかるように、誰よりも彼の獲得を望んでいたのはビエルサだった。




形はどうあれジェイムズの獲得に失敗した今、彼が直面する現実は、あまりに層の薄い前線の頭数だ。ジャック・クラークの大ブレイクという嬉しい誤算こそあったものの、計算に入れていたサイース、ジェイムズが構想から抜けたことで、2列目はパブロ・エルナンデス、エジャン・アリオスキ、クラーク、ジャック・ハリソンの実質4枚で回していくことになる。一応ケマー・ルーフやパトリック・バンフォードといった選手たちもできることにはできるが、やはり彼らはストライカーで使ってこその選手でもある。

今シーズンは積極的な若手の登用、さらに負傷者が出た際の思い切ったコンバートがことごとくうまく行き、最小限レベルのスカッドながらもなんとかここまでビエルサ流フットボールを機能させ続けてきたリーズ。しかし年明け後わずか3勝という失速ぶりが選手たちの蓄積疲労と無関係とは思えず、様々な意味でここからの大失速さえあるのではないかと心配してしまうようなピリオドとなった1月は、やはり彼らにとって悪い1ヶ月だった。

しかし、そんな嵐の後にも、たった1つの希望がリーズの地には残されていた。キコ・カシージャの到着である。

ここまでゴールを守り続けてきたベイリー・ピーコック・ファレルは、昨シーズン後半の好調ぶりを発揮するシーンもなかったとは言えないものの、一方で首位争いをするチームの守護神としては物足りない面を見せることも多かった。単純に、そんな不安定な若手GKが、あのレアル・マドリーでもある程度試合に出ていたGKに代わるのだから、チームにもたらすプラスの影響は計り知れない。

加入後4試合に出場してまだ完封のないカシージャだが、試合を見ればそのGK能力に疑いの余地がないのは明らか。ここまで不安ばかりを述べてきたが、カシージャがゴールに座ったという事実だけが、シーズン終了後リーズの1月を振り返る際に取り上げられている可能性も十分にあるだろう。



【1位 ノリッジ】

IN
DFフィリップ・ハイセ(←ディナモ・ドレスデン 移籍金非公開)
DFアキン・ファメオ(←ルートン 移籍金非公開)
OUT
GKレミ・マシューズ(→ボルトン 移籍金非公開、完全移籍移行)
MFベン・マーシャル(→ミルウォール ローン)
MFマット・ジャーヴィス(→ウォルソール ローン)
FWネルソン・オリヴェイラ(→レディング ローン)




今シーズン、シーズン前の下馬評を覆し快進撃を続けるノリッジの原動力は、完璧に形作られた組織力だ。そしてこの1月の移籍でも、その片鱗が垣間見えた。

シニアプレイヤーでは唯一の獲得となったハイセは、以前から今シーズン終了後にフリーで獲得することが濃厚とみられていた選手だった。昨年夏にはウォルヴズが熱心に狙い、300万ポンドの移籍金を提示していたが、ディナモ・ドレスデンがこれを拒否。そして契約最終年に入った今シーズンもレギュラーとしてプレイしていたが、契約延長を求めるチームはウィンターブレイク後彼をメンバーから外し、これが逆効果となってノリッジへの移籍の意思を固めたという。移籍金も100万ポンドに満たない額のようだ。

ノリッジの左サイドには、ビッグクラブからの関心が伝えられるジャマール・ルイスがいる。しかしこれを、ルイス放出に向けた動きと取るのは早計だろう。ダニエル・ファルケ監督は1月の移籍市場について、次のようなコメントを残している。

「正直なところ、昨年の1月のような大幅なメンバーチェンジを行わないことが重要だと思っている。あれ自体は成功の部類に入る移籍市場だったと思うし、例えばモリッツ・ライトナーはすぐにチーム内で重要な存在になった。でも今シーズンは、それにも増していい働きをしているだろう?とにかく昨年は大きな動きがあって、その背景にはアレックス・プリチャードの放出もあった。今は自分たちらしいプレイを安定感を持ってできている。ここ4ヶ月半の間に、負けたのはあの停電があった試合だけだ(1月末時点での話)。だからまずは、良い一貫性を持って、今いる選手たちで前に進んでいくことが大事なんだ」


確かに昨年の冬、ノリッジは5人の選手を獲得し、8人の選手を放出する慌ただしい1ヶ月を過ごした。そしてここで獲得した選手の中では、ファルケが言及したライトナーの他にも、オネル・エルナンデスや、ケニー・マクレーン(彼はローンバックされた)など、昨シーズンの内にはさほど大きなインパクトを残せなかった選手が、今シーズンに入ってパフォーマンスレベルを向上させている。

当然のことだが、昨年と今年ではチーム状態に大きな差があるからこそ、このような冬の動きの違いが生まれてくる。
ジェイムズ・マディソンに頼り切り、ファルケの哲学が選手全体に浸透していなかった昨シーズンは、降格の可能性さえ無視できないほどにチーム状態は切羽詰まっていた。それ故にプリチャードのような主力選手も放出せざるを得ず、結果としてさらに難しい状況に追い込まれた。

今シーズンはどうだろうか。今のノリッジから出ていきたいと思っている主力選手が1人でもいたとしたら、それはディズニーランドで夜のパレードが始まる直前に、「イッツ・ア・スモールワールド」に入っていってしまうようなものだ。

実際、前述したルイス、そしてライトバックのマックス・アーロンズのセットで語られることの多い2人は、まったく悩むことなく残留の道を選んだ。この2人やベン・ゴッドフリーが残留したことは、主力にイングランド人が少ないノリッジにとって、ホームグロウンプレイヤー枠の確保という観点から見ても非常に大きい。

またテーム・プッキやエミ・ブエンディアといった選手にも、本来活躍ぶりを考えればオファーが殺到してもおかしくないのだが、傍から見ている限り彼らが移籍を望む可能性など考えられないからか、関心の噂は聞かれなかった。それほどまでに今のノリッジは成熟し、いろんな意味で手が付けられないオーラを放っている。

メンバーも変わらなければ、戦い方も変わらない。そしてもちろん、昇格への勢いにも変わりはない。ノリッジにとっての1月は、ただのシーズン中の1ヶ月でしかなかった。

それは、実は最も難しく、最も望ましいことなのだ。




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