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League One, Twoはシーズン打ち切りが濃厚に EFLで今何が起きているのか



57日の “The Athletic” に、新型コロナウイルス問題関連の大きな動きを報じる記事が掲載された。


『独自:League One, League Twoはシーズン打ち切りへ 順位決定方法はクラブ間投票で決定』


この一報を伝えたのは調査報道に定評のある元BBC, PAのマット・スレイター記者。 “Athletic” における新型コロナウイルス関連報道でも数々の独自情報を抜いてきたエース格で、情報の信憑性は高いと見るのが自然だ。

3月中旬のリーグ戦中断からおよそ1ヶ月半、多くのクラブが10試合以上の未消化を残す中でのシーズン打ち切りという判断。
今回の記事ではそれに至った背景、そしてEFL全体の今後の展望について紹介していく。

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【判断の背景】

EFLは現在のところ、League One, Two19/20シーズンの取り扱いについて、いかなる公式発表も行っていない。しかし7日の “Athletic” の一報をきっかけに各社が続々と同じニュースを報じていることからも、3部・4部のシーズン打ち切りは決定的となったと見て良いだろう。

スレイター記者によれば、EFLは月曜日(11日)か火曜日(12日)にもLeague One, Twoの各クラブに対し、「シーズンの続行不可能」及び「昇降格決定方法を決める投票への参加呼びかけ」を通達するという。
実際にこの2日前、EFLのリック・パリー会長は英下院デジタル・文化・メディア・スポーツ特別委員会の場で、League One, Twoのシーズンについて数日中に最終判断を下すと発言していたことが報じられている。

EFLは3月のリーグ中断後、何度か発表してきた公式声明の中で「プライオリティは試合の一刻も早い再開、シーズンの完了にある」と繰り返してきた。にもかかわらずこのタイミングでの方針転換となった背景には、大多数のL1, L2クラブから寄せられていた要請が関係している。

実のところ、この2ディヴィジョンのクラブの論調は、比較的早い段階から「打ち切り」の方向で一致していた。
この中でアクリントン・スタンリーのアンディ・ホルト、トランメアのマーク・パリオスといった発言力を持つ人物を主な発信源に多角的に指摘された問題点の数々は、2020年の英国フットボール界が抱える歪な業界構造の欠陥を浮かび上がらせるものでもある。




彼らがシーズン打ち切りを望む最大の理由は、リーグ戦の再開によってもたらされる財政面の負担があまりにも大きすぎるからだ。

昨今におけるプレミアリーグの隆盛が莫大な放映権収入によってもたらされていることは周知の事実だが、L1, L2に所属しているクラブの最大の収入源は、依然として入場料を中心とした所謂「マッチデイインカム」だ。この試合当日の売り上げは、L1, L2のほとんどのクラブにおいて全収入の内4050%の割合を占めている。

それが現状の予測では、少なくとも来年まで観客を入れた状態で試合を行うことは難しいと見られている。

シーズンの完了を優先し無観客開催を行うとなれば、クラブの総収入がそれだけでほぼ半減する。これはとてもネット配信の収入だけで賄いきれる額ではない。無観客にしてでも試合を開催するのは、放映権収入を軸としたビジネスモデルの下でのみ成り立つやり方だ。

もちろんEFLにも放映権収入は存在し、世界的に見ても高い水準の額がSkyや世界各国の放送局から支払われている。
しかし放送されるのはほとんどがチャンピオンシップの試合であり、それ故に放映権料の配分は2部=80%3部=12%4部=8%と凶悪な比率になっている。また放送試合数によるクラブごとの傾斜配分もなく、全額がシーズン前に支払われているため、無観客にしてまで試合をする意義はどこにも見出せない。

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それだけならまだしも、リーグ戦の再開は大幅な支出増にも繋がる。

現在EFLでは、多くのクラブがスタッフを “furloughed”(一時帰休)の状態に置いている。これは休暇扱いとなっている従業員の賃金の8割を英国政府が負担する一般企業向けの雇用維持制度で、収入が大幅に減っている各クラブが経営を続ける上で、現状不可欠な救済策の一つだ。


しかし試合を行うとなれば、現在休暇扱いとなっているスタッフは当然業務を再開することになり、給与支払いに政府の力を借りることはできなくなる。
またメディカルチームや(普段より少ないとはいえ)警備員、何より選手への出場給・出来高といった支払いを行う必要も出てくる。

この選手との契約も重大な問題の一つだ。クラブの財政基盤の弱さ故に長期契約を結ぶ選手が少ないL1, L2では、実に半数近くの選手の契約が630日に満了を迎えると言われている。
広く報じられている通り、FIFAは特例措置として契約が切れる選手への短期契約の提示を認めているが、それはここで発生している問題の解決には繋がらない。

財政面での苦境に瀕している多くのクラブは、その短期契約期間中に支払う給料自体が捻出できないのだ。ただでさえクラブには契約切れの選手に対し、(一種の失業保険として)満了翌月にも同額の給料を支払うことが義務付けられている。そこにいつまでかかるかわからない短期契約の支払いまで加わってしまっては、たまったものではないだろう。

実際にコルチェスターのロビー・カウリング会長は、6月で契約切れとなるレギュラー格の選手4名に対し、新契約を提示しないことを既に明言している。


ここで注目すべきは、コルチェスターがL2で昇格争いを演じていることである。目標のあるクラブでさえこのような措置を取らざるを得ないのならば、中位クラスの目標のないクラブでは、間違いなく同様の事例が多発するだろう。

主力を失った各チームは、ユース選手を並べた布陣で試合に臨むしかない。その場合、シーズンを仮に完了できたとしても、それが正当な形での順位決定だと言えるのかどうかには大きな疑問符が付く(この問題はボルトンが若手しか起用できない状況だった8月のL1でも提起されていた)。

「シーズン結果の正当性」はまさしく打ち切り反対派が真っ先に挙げる論点だが、どの道同様の問題が発生するのだとすれば、早くシーズンを打ち切った方が賢明だ。その理由は上で説明してきた通りであり、続けるメリットも「人々に感動を与えられる」等の著しく無根拠な言説以外には見当たらない。

繰り返すが、無観客開催を行った場合、L1, L2のクラブの総収入はほぼ半減する。まして近々に観客を入れることなど、とても現実的とは言えない。
もはや彼らのようなクラブに、試合を行うに足る財政的な体力は残っていないのである。

サルフォード(League Two, 10位)の共同オーナーを務めるギャリー・ネヴィルは、7日のシーズン打ち切りの報道を受け、次のように発言した。

「何週間か前にも私はL1, L2の再開は無理だろうと話しました。ブンデスリーガやプレミアリーグの再開に向けた計画は多額の資金をその前提にしています。安全面のプロトコルに始まり、中立地開催、それに向けたロジスティクスの整備、選手やスタッフを安全に収容するホテルの確保。L1L2のクラブがその投資を行うことはできません」

「あと2ヶ月もすればL1, L2の半数近くの選手が契約切れになります。でも今の契約を延長しようというクラブはほぼいないでしょうね。それに財政面でのリスクを取るクラブも少ないんじゃないでしょうか。スタジアムに観客も入れられないですし、選手に出場給やボーナスも払わないといけない。なのに収入がないわけですから。唯一再開する方法があるのだとすれば、それは我々の友人であるプレミアリーグが財政支援をしてくれた場合のみです。それでも彼らでさえ今は自分たちのことで手一杯ですから、多分よそに目を向けている余裕はないでしょうね」



【順位決定方法は?】

シーズン打ち切りへの機運が高まってきた中で、最重要課題の一つとなる最終順位の決定方法については、各クラブ側から様々な提案が出されている。

スレイター記者の取材によると、現在EFLが検討している方法は計6つあり、中でも最有力とされているのがホームとアウェイを別々に計算するPoint Per Game方式だという。

通常のPPG方式を採用する場合、問題となるのがホームアドバンテージの扱いだ。今シーズンのEFLでは、ホームチームの勝率が46%、アウェイチームの勝率が26%となっており、例年通り明確な差が出ている。そして現状、それぞれのチームのホーム試合消化数が不揃いであることから、単純なPPG方式を採用することには懸念が生じる。

それを踏まえ、あるLeague Oneのクラブが提案したとされるのが、イングランドのグラスルーツラグビーで順位決定に使用されたホームアウェイ別のPPG方式だ。このメソッドでは、まずホームとアウェイのそれぞれの成績でPPGを算出し、それをL1では22倍(ベリーが除外されているため)、L2では23倍することにより最終順位が決定される。

スレイター記者は実際にこの方法を使い、League OneLeague Twoの推定最終順位表を掲載している。
なおプレイオフは行われないことが濃厚で、その代わりにL13位、L24位のチームが自動昇格となる見込みだ。




(ここにはマクルスフィールドの勝ち点7剥奪が反映されていないが、それを入れても降格圏の最下位には落ちない計算)


これを見ると、League Oneでは現状の順位がそのまま昇降格に反映される(ボルトンとサウスエンドの順位が入れ替わるだけ)。
一方でLeague Twoでは、4位のスポットに現在5位のチェルトナムが入ることになる。シーズンの大半を通して4位以内をキープしてきたエクセターにとっては、何とも与しがたい結果になるかもしれない。

また他にも、
  • 現在の順位をそのまま反映させる
  • シーズン前半の成績で決める
  • 中断時までにどれだけ強い相手と戦ってきたかで決める
といった決め方の案が出ているが、シーズン全体を無効とする案は既にほぼ可能性から除外されている。

また降格をなくすという声が今後出てくる可能性もあるが、これについては日程の混雑を避けたいプレミアリーグの強豪から強い反対意見が出るだろう。
そうでなくとも、プレミアリーグ設立時のフットボールリーグ、FAとの三者合意で1リーグあたりのチーム数が決められているため、その可能性は現実的ではない。


【チャンピオンシップの動き】

シーズンの完了を基本線に調整を続けているチャンピオンシップだが、依然として具体的な今後の計画は見えてきていない。10日に行われたボリス・ジョンソン首相のスピーチでロックダウンが解除されなかったことから、当初予定されていた516日のチーム練習再開も絶望的になった。

L1, L2のクラブに比べマッチデイインカムへの依存度が低い2部のクラブは、多くが無観客開催でもシーズンを完了することを望んでいる。クラブの首脳陣同士は定期的に会議を開き方針を確認しているが、一方で個人の利益に固執するオーナーの多さから、リーグ全体が一丸となって行動できているとは言い難い。

その綻びは初期の会合ですぐに表れた。リーグ中断直後、各クラブが収入減の影響を受け始めたタイミングで、選手の給与繰延スキームを2部クラブ全体で導入する案が持ち上がった。
一時的に選手に支払う給与の上限額を週6,000ポンドに制限し、長期的なクラブ運営に役立てるものだった。

提案段階では多くの賛成意見が聞かれていたが、話し合いが進むに連れ議論は平行線を辿るようになった。それは異常な給与体系を持つクラブを利するだけだと考えたオーナーもいれば、バーンズリーやチャールトンのような元々の給与水準が低いクラブにとってはそもそも意味をなさない提案だった。
またストークやプレストンは早々に8月までの給与全額支払いを約束していたため、輪に加わることを拒んだ。

結局その1週間後、バーミンガムやリーズ、ブレントフォードといったクラブが個別に選手と交渉を行い、クラブ独自の給与繰延施策を発表したことで、集団的アプローチは失敗に終わった。またブラックバーンのように、選手との交渉が不調に終わり、給与繰延自体を実施できなかったクラブもあった(クラブ側が交渉を急ぎすぎたため)。
一部クラブからは、この「出し抜け」の動きに不満の声が上がったという。

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(中央:リーズ アンガス・キニアCEO


リーグ戦の再開に向け何よりも問題になるのが、選手の安全をどう確保するかという点だ。妊娠中の妻や高齢の家族を抱える選手たちは、自身を媒介した親族への感染を恐れている。

またEFLが独自の計算として示したところによれば、政府が示している基準を満たす形で選手・スタッフの健康状態を把握・保護するためには、チャンピオンシップだけでもシーズン終了までに計20,000回以上のPCR検査が必要になる見込みだ。

これは週20,000ポンドの出費を各クラブに強いるだけでなく、プロスポーツとしてのPR面にも悪影響を及ぼすことが予想される。
日本同様、ここまでの検査数の少なさを理由に英国政府が国民から猛批判を浴びその対応に追われる中で、「貴重な検査キットを使いすぎ」という批判がフットボール界全体に対して出ることは避けられないからだ。


この他にも、チャンピオンシップでは中立地ではなく本拠地での無観客開催を基本線としていることから、どのようにスタジアムの外でサポーターの「密」を作らないようにするか、アウェイ遠征時のホテル確保といった細かい問題も山積している。

そういった中で、8日にはチャンピオンシップでもシーズン打ち切りに傾くクラブが増え始めていると “Times” が報じるなど、各クラブの考え方には徐々に変化も生じてきている。

Championship clubs want season to be curtailed and decided on points per game

3位争いや降格争いにはまだ議論の余地があるが、幸いにして最も重要な自動昇格のスポットはリーズとウェストブロムが後続に差をつけた状態で確保しており、いかなる計算式を使おうとも現状この2チームのトップ2は揺るがない。
各チームの試合数が37試合と揃っていることも、決断を容易にする要素になり得るだろう。


55日、パリー会長が委員会で報告】

こうした状況の中、英下院のデジタル・文化・メディア・スポーツ特別委員会が55日に行われた。この日、EFLのリック・パリー会長がコロナウイルスによる影響を報告するために召喚され、同委員会で証言を行っている。

以前の記事でも紹介した通り、パリーはプレミアリーグやUEFAでの役職も経験した財政面のエキスパート。彼は委員会の場で、今シーズンの扱いから中長期的な展望に至るまで、幅広いトピックに触れた。




以下にこの日のパリー発言のポイントを整理する。

    シーズンについて
選手・スタッフの契約上の理由から、731日がシーズン終了のデッドラインに指定された。
また昇降格の扱いについては以下のように話し、プレミアリーグサイドを牽制している。

「我々としては何があれチャンピオンシップから3クラブがプレミアリーグに昇格することが既定路線であり、それはプレミアリーグ側にも認識していただいているものと考えています。またプレミアリーグからも3クラブが降格してくるものと認識しています。(もしプレミアリーグが降格枠を撤廃すれば)弁護士の仕事が増えるでしょう。チャンピオンシップのいくつかのクラブも不満を隠さないでしょうし、三者合意違反にもなります。控えめに言っても、大変厄介な状況になると思います」

今シーズンと同等に気を揉んでいるのが来シーズン以降についての問題だ。

「来シーズンについてはまだ不確定要素が多く残っている上に、EFLにとって本当に重要な観客の問題が未解決のままです。我々はプレミアリーグ以上に観客が生み出す収入と雰囲気に頼っています」

また無観客試合がEFLのクラブにもたらす経済効果は低く、開催の主目的はシーズンの正当性を担保するためだとも強調した。


    給与繰延
4月下旬、PFAが給与繰延を行うクラブの財務監査を目的にデロイトと契約したことを歓迎した。

「我々の立場としては、関係者全員が被害を被っている仲間だという見方です。ですから、クラブ、オーナー、選手の全員が解決に向けて手を合わせていく必要があり、痛みを分かち合わなければいけません。我々のオープンブックポリシーに基づき、デロイトの監査プロセスにも全面協力します」

    プレミアリーグからの資金注入
EFLクラブへのレスキューパッケージの必要性について「完全に同意」した上で、プレミアリーグが下部リーグを支援することに失敗していると批判した。

「もう少しお金が上流から流れてくるものだと思っていましたが、その兆しはありません。(プレミアリーグの立場は)彼らがプレイを再開できれば我々とも話し合えるということですが、そんな日が来る見通しも立っていません。話し合いのチャンス自体が限られていました」

「レスキューパッケージも必要ですが、一方で長期的な取り組みも必要です。この二つは両輪でなければいけません。9月の終わりには2億ポンドの赤字が出る計算なので救済策は必要です。しかし救済策に次ぐ救済策を繰り返していては、問題の根本的な解決にはなりません」

    資金分配システムの再構築
③の問題が発生している根本的な原因を解決するためには、現在のフットボールクラブの運営方法そのものにメスを入れる必要があると主張する。
サラリーキャップの導入、「根絶されるべき悪」と彼が形容するパラシュート・ペイメントの撤廃などがその具体的なアイデアだ。

「これまでのやり方を完全にリセットし、収益の分配方法を再検討する必要があります。パラシュート・ペイメントなどは、根絶されるべき悪のシステムと言えるでしょう。現在チャンピオンシップでは6クラブがこれを受け取っており、平均して彼らはシーズンあたり4000万ポンドの収入を手にしていますが、他の18クラブに分配されるのは各450万ポンドずつに過ぎません。彼らが苦しむのは当たり前です」

(週給について)「サラリーキャップとコストコントロールの導入はもはや絶対条件のように思え、既に多くの議論が行われています。我々としては一個人の週給額に制限を設けるのではなく、チーム全体の週給総額に上限を設けるのが適切だと考えます。予算そのものをキャッピングするということです」

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【構造改革】

パリーが公の場でEFLの構造改革について言及したのは、私の記憶が正しければこれが初めてのことだ。ダービーやシェフィールド・ウェンズデイ、バーミンガムへのFFPクレームを通してその野心の一部を垣間見せていた彼は、下院特別委員会の場で、遂に具体的な施策案というカードを切った。

そしてそれは、極めて適切な場所・タイミングであったように思う。

実際のところ、一連の新型コロナウイルス騒動が巻き起こる前から、EFLの財政的なバランスはとっくに破綻していた。そもそもパリーが会長に就任した2019年秋の時点で、既にベリーはリーグを除名されており、マクルスフィールドも取り返しのつかない状況に陥っていたのだ。

その意味では、言葉は間違っているかもしれないが、今回の新型コロナウイルス騒動は一種の「チャンス」であるとも考えられる。
近年高騰を続ける一方だった移籍金の相場は、ここから間違いなく下降に転じる(1月の時点では考えられなかったことだが、最後の勝ち組はジャロッド・バワンで2000万ポンド近くを手にしたハルになるかもしれない)。給与面に関しても同じだ。

現在行われている給与繰延などの措置にしても、結局は借金を貯めているだけにすぎず、事態は刻一刻と悪化していく。これを機にクラブの財務体系を見直さない限り、ほとんどのクラブはもう運営を続けることさえできない。
もちろん予期せぬタイミングではあったが、プレミアリーグ・バブルの中で皆がいずれ訪れると覚悟していた「切り下げ」の時が、遂にやってきたのだ。


構造改革を求める声は評論家・現場レベルからも多く出てきている。


“Price of Football” でお馴染み リヴァプール大学のキーラン・マグワイア講師
「業界全体はパンデミックによってとどめを刺されました。マクルスフィールドとサウスエンドは2月分の給料を支払えていません。オールダムも3月分の給料を5月になってから払っているので、まだバックログが残っていると思います。L1, L2クラブの総収入の内半分近くを占める入場料収入がない中で、この状況に立ち向かうのは容易ではないはずです」

「パンデミックが起こる前から、既にフットボール界は崖っぷちに立たされていたのです。そこでは年2000-3000万ポンドの負債を肩代わりしてくれるシュガーダディの存在を前提とした、到底持続可能性のないビジネスモデルが採用されていました。もし誰も投資を行わないような状況に陥れば、この負債額は瞬く間に増えていくでしょう」



ルートン(チャンピオンシップ, 23位) ギャリー・スウィートCEO
「我々のような少ない予算を的確に運用してきたクラブでさえ、今はピンチだという実感があります。それならばこれまで好き放題やってきて、FFPにも散々引っかかってきたようなクラブでは今何が起きているのか、私には想像もできません」



トランメア(League One, 21位) マーク・パリオス会長(元FA最高経営責任者 2003-04
「大規模な別ソースからの資金提供がなされない限り、(一時帰休の)雇用維持制度の終了とともに、フットボール界では従業員を解雇する動きが広がるでしょう。その矛先はまず裏方のスタッフに向きます。圧倒的に高い支出を生んでいる選手契約は、なぜかアンタッチャブルな領域だとみなされているからです。選手の契約は複雑に入り組んでいて、たとえ余剰人員であったとしても、クラブは彼らに賃金を支払い続けなければいけません。何かが変わらない限り多くのクラブは破綻するでしょうし、給料を支払えたとしても、選手とスタッフの扱いの差に内部で不満が生じるのは目に見えています」

「迅速かつ抜本的な解決策が求められます。観客が戻ってくるまで選手の給料を引き下げる以外に道はありません。PFAが貯蓄している補助金という手が一つには考えられ、国家危機に備えて国がフットボーラー用に蓄えている予算だってあります。選手契約のサスペンション条項を使ってもいいでしょう」

「コロナウイルスの終息後にも新たなフェーズが待っています。観客を入れられる状態になっても、収入は間違いなく減るからです。密を避けたがる人がいれば、可処分所得が減りお金を落とさなくなる人がいて、企業もスポンサードに乗り気ではなくなるでしょう。ビジネスが再開した後も、しばらくはこれまでの半分程度の収入しかなくなると見込んでいます。繰り返しますが、最大の問題点である選手給与の見直しなくして、フットボールクラブは生き残れません」

「また考えられる不安の一つに、特に下部リーグのクラブにおいて、本業で損益を被ったオーナーの金払いが悪くなることが考えられます。より悪い方向に考えれば、(ベリーの時のような)1ポンドでクラブを買収する『カーペットバッガー』に、より付け入る隙を与えてしまうかもしれません。そういった人物を排除する目的において、いかに現行のレギュレーションが役立たずかということは、もう周知の通りです」

「フットボール界が生き残るためには、根っこからの構造改革が必要です。契約の見直し以外にも、パラシュート・ペイメントの撤廃、EPPPの再考、クラブをモニターするアプローチの変更や債権者ルールの撤廃など、見直すべきことは多くあります。コロナウイルス前にも、賃金問題や財政的な持続可能性については話し合いが持たれていました。財政基盤の弱いクラブが負債を抱え、火事場操業が続いている現状では、一刻も早く効果的なレギュレーションを作る必要性が生じています。長期的な視点が不可欠である一方、短期的にはシンプルで、強い罰則を持つ規則が必要になります。それは単純な週給キャップとそれに関連したスカッドサイズの設定です。短期的な視点で見れば、リーグ間での競争力の維持というアジェンダよりも、コストカットの方を重視すべきです」

「あるいはより大きな議論を呼ぶかもしれませんが、FAからの動きが期待できない場合、外部からなる業界の規制当局を導入することも検討せざるを得ないでしょう。リーグ中断後の期間において、EFLメンバーは利益の相反、財務状態や物事に対する基本スタンスの相違、また『表向きの』PFAの力など理由に、その自浄作用のなさを自ら証明してきました。FAは長年フットボール界の独立を最優先事項に掲げ傍観を続けてきており、現在に至っても解決策を提示する力も意欲もありません。誰かがより良い未来のために動かなければならないのです。そうでない限り、我々はフットボール・ピラミッドや地域コミュニティの中心にあるクラブが存在しない未来に直面することになります」
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(トランメア マーク・パリオス会長)


イギリスにおける新型コロナウイルスの流行は、まだ終息の兆しを見せているとは言い難い。その中でフットボール界に現状求められるのは、来るべきアフターコロナの冬の時代に向けた綿密な準備であろう。

4月下旬、デジタル・文化・メディア・スポーツ相のオリヴァー・ダウデンがフットボールを「できるだけ早く」再開させたいと語ったことは、業界関係者に驚きと警戒を持って受け止められた。
それは3月上旬のチェルトナムフェスティバルでの失敗を思い起こさせるものであり、それまでの英国政府の感染拡大防止施策の失敗から目をそらすための、プロパガンダエフォートの一環にも思えた。

たとえ無観客であれ、紛うことなきコンタクトスポーツであるフットボールを現実空間で行うためには、まだ無数の問題が残されている。昨日変更された政府の基本方針の中にも、 “Save Lives” という言葉は依然として残されている。
フットボールの幻想に無菌空間の夢を見るのではなく、日常生活に基づいた科学的な考えで関係者全員の命を守ることが先決だ。

ならば今フットボールクラブが戦うべき場所は、ピッチ上ではなくインターネット回線の上にある。特にプレミアリーグ、チャンピオンシップならまだしも、今L1, L2のリーグ戦を再開するという行為は、安全面のリスクを承知で損を取りに行くことに他ならない。

幸いにして今のEFLには、「問題特定のプロ」リック・パリーと、現状打破の必要性に駆られた各クラブのオーナーたちがいる。そして有益な議論を行うための十分な時間もある。誰もいないスタジアムで馬鹿げた密の状態を作るよりも、それぞれの家から今後のフットボール界を作る提案を競い合った方がよっぽど建設的だ。


新型コロナウイルスは、フットボール界が見て見ぬふりをしてきた数々の問題点を顕在化させた。それは不幸中の幸いであり、この暗澹たる1ヶ月半の中で見られた数少ない救いでもある。

「禍を転じて福と為す」。この痛みを健全な未来に繋げることが、全EFLクラブが果たすべき責任だ



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