オックスフォード、恥と誇りの1勝 - EFLから見るフットボール

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オックスフォード、恥と誇りの1勝

1月19日、その日行われたLeague One12試合の中で最も驚きをもって捉えられた結果は、間違いなくカッサム・スタジアムでのオックスフォードの勝利だっただろう。

オックスフォードはその日まで公式戦7試合未勝利の降格圏21位。一方、アウェイに乗り込んできた対戦相手のポーツマスは前週ブラックプールに敗れていたとはいえ、2位ルートンに4ポイント差を付ける首位。
それに加えて、1週間の内にオックスフォードを襲った数々のスキャンダルが、ホームチームの勝利を期待する「穴党」たちに冷や水を浴びせかけていた。

(オックスフォード カール・ロビンソン監督)

監督のカール・ロビンソンにとって、まさに寝耳に水のニュースが飛び込んできたのは、15日火曜日の朝のことだった。22歳のウインガー、ギャヴィン・ホワイトが路上で自慰行為に及んでいる動画が、ソーシャルメディア上で拡散されていたのである。


地元ベルファスト市のスポーツ賞のセレモニーに出席したまさにその日の出来事とあって、ホワイトの愚行は当然多くの関心を惹きつけてしまう。北アイルランド代表のマイクル・オニール監督も、代表4キャップを持つホワイトの行為を「到底受け入れ難く、北アイルランド代表選手に期待される立ち振る舞いの水準を大きく下回る」と話し、失望を滲ませた。

もちろんロビンソンも、ホワイトに対しすぐに苦言を呈した。

「本当に彼らしくない行動だ。ギャヴィンは物静かで、若いながらに敬意に満ちた人間だが、この一件だけでそれも全部水の泡だよ。これほどまでに後悔して、二度としてはいけないと学ぶ必要のあることをしてしまった人間はそう見たことがない。当然酒を飲みすぎてしまったこと自体も解決しないといけないことだけど、フットボーラーという職業どうこうではなく人間として誤った行動だ。我々は今日ギャヴィンと話し合いの場を持って、はっきりとした言葉で彼に人間としての責任を説く。彼がこれを乗り越えるために、心身両面からサポートしていく。彼は素晴らしい若者なので、どうかファンは一瞬の気の迷いだと思って見逃してやってほしい」

時を同じくして、クラブにはHMRC(イギリス歳入税関庁)から、税金未払いに伴う企業解散命令が届いていた。

オックスフォードの経営状況については、1月21日号の “The Times” に掲載されているGregor Robertson氏のコラムに詳しい。



オックスフォードのオーナーは、通称「タイガー」として知られるタイ人のスムリス・タナカルンジャナスス氏だ。またつい先日までインテルのオーナーだったエリック・トヒル氏をはじめ、オックスフォード経営大学院(サイード・ビジネススクール)のディプロマを持つヨルダン人のザキ・モハメド・ヌセイバ氏、ドイツ人実業家のホルスト・ガイチュケ氏の3名がダイレクターに名を連ねており、一風変わった面々によってオックスフォードは運営されている。

元々オックスフォードは、前オーナーのダリル・イールズ氏(現ソリハル・ムーアズ会長)の体制下で躍進を遂げ、3部昇格を果たしたクラブ。1988年に当時の1部リーグから降格して以降、一時はノンリーグでの生活も経験したが、オックスフォードという国際的にも高い知名度、そして良いイメージを持つ街のクラブとあって、多種多様な投資家たちが関心を抱くのも頷ける。

しかしながら、クラブにとっての暗黒期であるカンファレンス時代も決して見捨てることなくサポートを続けてきたファンたちからすれば、上のディヴィジョンを狙える状況になった後に海外からやってきた現上層部による計画性を欠いた経営は、到底許容できるものではない。
未来があり、これがキャリア初のスキャンダルだったホワイトは、おそらく今回の失敗を猛省し、今後に活かすことができるだろう。一方で、ここ10ヶ月で3度目の税金未払い、クラブ解散命令を受けた上層部に同じ期待をかけるのは、覚せい剤で捕まった人を何の対策も講じずに社会に出してしまうようなものだ。

ポーツマス戦のマッチデイプログラムで、タイガー会長は税金は全額支払っているとした上で、サポーターたちに経営への理解を訴えた。だがサポーターズトラストの “OxVox” はその前日に声明を発表し、上層部の不透明な経営方針とクラブの正確な現段階での状況についての説明を求めていた。



そんな最悪の状況の中、オックスフォードはホームにリーダーズのポンペイを迎えた。

そして、驚くべきことに、彼らはピッチ上で答えを出した。


試合の大部分を通して、オックスフォードは首位ポーツマスをセカンドベストに追いやった。現状唯一出場可能なストライカーであるジェイミー・マッキーが1トップで起点を作ったのとは対照的に、前線に目標を作れなかったポンペイは、ジャマール・ロウ、ローナン・カーティスといったサイドの強力な選手が無効化され、ブレット・ピットマンの思いがけないようなシザースキックで1点を返すのが精いっぱいだった。

そしてこの勝利を語る上では、若きカール・ロビンソンのキャラクターを象徴するような采配があったことを忘れてはならない。
彼はあのギャヴィン・ホワイトを先発で起用したのだ。85分に交代するまでサイドで攻守に奮闘したホワイトについて、ロビンソンは試合後にこう語っている。

「ギャヴィン・ホワイトにとっては難しい1週間だったが、彼はプレイすることを望んでいた。ファンを失望させてしまったことを彼は本当に心配していた。逆サイドのジョーダン・グレアムもそうだが、両ウインガーは本当にいい仕事をしてくれたね」

若くしてMKドンズをチャンピオンシップにまで引き上げたことで名を上げ、そのMKが3部に降格した後の夏にはリーズから監督就任のオファーを受けたこともあったロビンソンには、こんな逸話がある。

それはパトリック・バンフォードがMKにローンで来ていた2013/14シーズンのことだった。

バンフォードは、スランプに苦しんでいた。それはキャリアをスタートさせたばかりの彼が、初めて味わう苦痛だった。
そんな練習でのバンフォードの姿をロビンソンは見逃さなかった。エヴァートンアカデミー出身で、リヴァプールのユースコーチを経験し、ブラックバーンではサム・アラダイスの、MKではポール・インスのアシスタントを務めた彼には、当時若干33歳ながらに多くの「頼れる先輩」がいた。そしてロビンソンは、ロビー・ファウラーの電話番号を叩いた。

「ロビー、ちょっと力になってくれませんか?パトリックと話してほしいんです。5試合点が取れていなくて、スランプだと感じているみたいなので」
電話の持ち手をバンフォードに替えると、ファウラーはこう話し始めた。

「心配するな。俺も全然ゴールが取れなかったことがあってね、それも11ヶ月もだよ」

ロビンソンは、偉大なストライカーにもそのような時期があったことを知り、バンフォードが肩から自ら背負った重荷を下ろしていく様をしっかりと見届けていた。

「まあ、その11ヶ月っていうのは、俺が十字靭帯を怪我してた時なんだけどね!」

しばしの笑いが起こった後に、ファウラーはよりシリアスなアドバイスをバンフォードに贈った。

「それはスランプじゃないんだよ。良いボールが送られてきていないだけだ。枠にシュートを打つことはできてるか?」
「はい」
「よし、君はスランプなんかじゃない。キーパーがたまたま良いプレイをしてるんだよ」

この後、バンフォードはイアン・ライトとも話す機会を与えられ、無事に調子を取り戻した。
ロビンソンはこの時のことについてこう語っている。

「ちょっとした格言のようなものだね。困ったときにこういった人たちに連絡できるのはラッキーなことだよ。パトリックは綺麗なゴールしか求めていなかった。だから綺麗なゴールでも汚いゴールでも、ゴールはゴールなんだという考え方を持ってほしかった。彼はそれを理解して、それからは汚いゴールも決めてくれた。その結果が17ゴール(1月にダービーにローンスイッチするまでの数字)だよ」


それから5年の月日が経ち、ロビンソンを取り巻く環境は大きく変わった。
リーズからの誘いを断ってまで残留したMKから解任され、チャールトンではオーナーシップの混乱に巻き込まれチームを昇格に導くことができなかった。昨年3月に就任したオックスフォードでもそれは変わらず、今シーズンは厳しい立ち上がりだったが、それでも粘り強いアプローチで中盤戦からは盛り返している。

「確かにいくつかのパフォーマンスを見れば、下手したらクラブを去らなければいけないくらい酷いものもあった。『待て、なんで奴はまだ解任されてないんだ?』ってね。でも個人的には、クラブ内部の私より上の立場にいる人たちは、我々がどれだけハードに仕事に取り組んでいるか、そしてどれだけこのクラブを良くしているかを理解してくれていると思う。もしそうじゃなければ、私はもっと多くの質問を彼らから向けられていると思うからね。私はこれからもこの世界で長いキャリアを過ごしていくと思う。中には2つか3つ勝ったくらいですぐにステップアップしようとする監督もいるけど、そういう人の成功は長続きしない。私はもう10年近くに渡って、与えられた予算以上の結果を残すことによって、実力を証明してきたんだ。そういう意味では、今は初めて予算以下の結果しか出せていないし、ファンを失望させてしまっている」

昨年夏、オックスフォードが490万ポンドを投じて完成する予定だった新しい練習場は、給水装置の不備によってピッチに水を撒くことができず、ロビンソンのプレシーズンの計画を狂わせた。また前線の補強に失敗したことで、先述したような現状ストライカーがマッキー1人という惨状も生まれている。

その中でも、ロビンソンは手持ちの駒でやり繰りを行い、チームに光明をもたらしている。
もちろんマン・マネージャーとしての能力も錆びついていない。対応次第では第二のチャド・エヴァンズになる可能性もあったギャヴィン・ホワイトは、再び北アイルランドの将来を担う存在として、フットボール界に居場所を与えられた。

オックスフォードにとっての恥と誇りの1勝は、彼らの輝く未来に繋がっているのかもしれない。

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