飽くなき構造改革の新たな戦場「放映権」:デジタル新時代に向かうEFLとフットボールピラミッドの近未来 - EFLから見るフットボール

飽くなき構造改革の新たな戦場「放映権」:デジタル新時代に向かうEFLとフットボールピラミッドの近未来

 




去る2022年、日本国内におけるEFL関連のビッグニュースといえば、やはり中山雄太のハダースフィールド移籍、そして2017年以来となるDAZNのEFL放映権獲得の2つが真っ先に挙がる。


これまでも試合ごと、あるいはシーズンごとにお金を払えば、日本からでもEFLの試合をライブで見ることはできた。

それでも毎週1080pの映像で、(ハダースフィールドの試合だけだが)時には日本語実況までついて試合を観戦できる喜びは、それまでの環境を知っている人ほど感慨深いものだったに違いない。


何より、EFLの裾野が広がったことを実感できた年でもあった。このようなニッチな発信に対するインプレッションも増え、個人としても様々な波及効果を感じられた半年間。まずは日本での放送が再開したことに感謝の意を書き記しつつ、この記事をスタートさせる。



というのも、昨年のEFL全体を振り返ると、日本だけでこういった話題が注目されていたわけではない。


近年このブログで取り上げてきただけでもBMEスキームサラリーキャップ、そしてプロジェクト・ビッグ・ピクチャーと極めて余念のない構造改革への意欲を示し続けてきた英国フットボール界とEFLにおいて、昨年議論の中心に躍り出たキーワードが「放映権」だった。


フットボール界の悠久の歴史の中で仕立て上げられた最大の聖域と、そこに満を持して切り込む姿勢を見せたEFLの意気込み。無視できぬ世界的なエンターテインメント界の潮流の中で未知の領域に踏み出さんとする統括機構と各クラブは、紛れもなく死活問題となるそれぞれの未来のために、必死に己の立ち位置を見出そうとしている。



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EFLが求めた画期的な提案、複雑に絡み合う背景

10月13日、EFL公式サイトに1件の声明文が掲載された。このリーグにおける最大のパートナーでありクラブにとっての最大の収入源、イギリス国内での放映権事業者について、Skyとの現行契約が切れた後の24/25シーズンからのプロポーザルを公募する旨の内容だった。


EFL issues Request for Proposals for broadcast rights


現行のTV契約(この言い方もいずれ過去のものになるかもしれない)はSkyが18/19シーズンから結んでいる5年契約で、総額5億9500万ポンドがEFLに支払われている。1シーズンあたり138試合が放送されることになっているが、当時チャンピオンシップに在籍していたリーズ、ダービー、アストンヴィラといったビッグクラブは放映試合数に比して実入りが少なすぎるとして、契約を締結したEFLを批判していた。


そのため、今回契約に懸けるEFLの意気込みは推して知るべしだ。入札候補者にはEFLから計53ページにも及ぶ超大作のRFP(提案要件)が送付され、その中には現状のEFLについて彼ら自身が分析した詳細なデータが含まれている。文書内では182の地域、4億400万人のファンが毎シーズンEFLを視聴しているとされ、イギリス国内だけでも1450万人(これは累計と思われるが)の市場規模が存在していると定義された。


そして本来入札者側が行うような市場調査の結果も示されていた。「ストリーミングサービスを介したアウェイ戦の視聴に興味があるか」という質問には99%のファンが、そして「全ての試合をカバーするシーズンパスに興味があるか」という問いには93%のチャンピオンシップクラブのファンがYesと回答した。


これらの記述を通して、遠回しにEFLからの強い要望が浮かび上がる。そして一般向けに公開された上述の声明の以下の一文から、それははっきりとした確信へと変わっていく。


「入札候補者には、リーグ戦、EFLカップ(カラバオカップ)、EFLトロフィー(パパジョンズトロフィー)、そして昇格プレイオフを併せたシーズン全1,891試合の放映権が与えられます」


一見当たり前ではないかとも思えるこの一文は、実は英国フットボール界の長い歴史でも最も抜本的な改革に繋がる可能性を持つ重要な記載だ。


なぜなら、この文章が指し示す事実は、1960年以降イングランドにおける最大の聖域とされてきた土曜15時キックオフ試合の国内放送禁止令(ブラックアウト)を撤廃する方向へとEFLが舵を切ったことを意味するからだ。





土曜15時のブラックアウトについては↑の動画を参照されたい(絵だけでもわかりやすいが、YouTube上で見ると英語の字幕付きでも見られる)。


簡単に言えば、UEFA規約(第48条)に「FAはその国の放映権事業者に対して特定の時間の試合を放送しないことを義務付ける権利がある」とする条文が存在しており、イングランドとスコットランドのFAは「土曜日の14:45-17:15(FAカップ決勝以外)」をその対象時刻に設定しているという話だ。


この時間設定はもちろん、英国では伝統的に土曜日の15時がフットボールのKO時間とされてきたためのものである。そのため現在EFLの放映権を持つSkyで放送される試合は金曜夜や土曜のランチタイム、あるいは日曜・月曜にキックオフ時間をズラされており、より国内での放送数が多いプレミアリーグに至っては、土曜15時から行われる試合数そのものが近年では少なくなってきている。


しかしこのルールはほぼ英国特有のものだ。前述した通りブラックアウトのルールはUEFA規約に則ったもので、即ちヨーロッパ全域で導入することが可能だが、イングランドとスコットランド以外でこれを用いているFAはモンテネグロしか存在しない。


英国でブラックアウトが導入されたのは今から60年以上も前のこと。プレミアリーグ設立からさらに遡ること30年、当然今とはフットボール界を取り巻く環境が180度異なり、「テレビ放映によってスタジアムの来場者数が大きく減り、業界全体に悪影響を及ぼす」という仮説が広く信じられていたため、当時の意思決定層が「フットボールを守るため」にこのルールを取り入れた。


つまりテレビ放送が広く普及しはじめ、フットボールがテクノロジーとの共存を始めた黎明期からブラックアウトは存在しているため、「テレビ放送=観客減」という仮説は何ら確たる証拠を持たない


加えて当時とはメディア環境そのものが大きく変化し、スタジアム自体やマッチデイエクスペリエンスの自助努力(これをクラブに可能にさせたのは放映権収入に他ならない)も変化し、フットボール界自体が以前とは全く異なる状況となっていることは言うまでもない。フーリガニズムの蔓延等で一度は大きく減った観客数も、プレミアリーグ設立を契機としてV字回復を遂げてすらいる。



それでも、得体の知れないブラックアウトの効力に対して、英国フットボール界はなかなか重い腰を上げられずにいた。この状況を変えたのは、新型コロナウイルスによるパンデミックだ。


20/21シーズン、前年最終盤から続いた無観客試合・観客数制限がとりわけ下部リーグのクラブの懐を激しく痛めつけた中で、彼らの大きな拠り所となったのが17/18シーズンから英国外のサポーター向けに導入されていたストリーミングサービスを通じた配信チケット販売による収入だった。スタジアムに観客を招き入れることができなくても、幸運にも海外展開を見据えて既に体制が整えられていた試合映像配信を国内向けにも開放することで、コロナ禍での投資費用を抑えつつクラブは一定の資金を確保できた。


人間がひとたび文明の利器を手にすれば、それ以前の状況にはなかなか戻れないものだ。21/22シーズンから再び映像配信は国外向けのみに制限されたが、各クラブのスタンスは確実に軟化の一途を辿っている。


その証拠に、先に行われたカタールワールドカップ中には、「国内の試合への関心を維持するため」としてブラックアウトが完全に解除されていた。ワールドカップ期間中も通して行われていたLeague One, Twoの試合はもちろん、決勝トーナメントの週から再開したチャンピオンシップにおいても、2週間分の土曜15時の試合が制限なく国内向けに配信された。


ちなみにプレミアリーグはブラックアウト撤廃の動きに反対している。グラスルーツ保護だけを謳うリチャード・マスターズのコメントをどこまで鵜呑みにしていいのかは疑問で、既にKO時間を分散して放映権の価値向上に成功している彼らにとっては、おそらくこれがあろうがなかろうが大して影響はないというのが実際のところだろう。


Premier League will not scrap Saturday 3pm blackout




仮にブラックアウトを撤廃し全試合を放送できるとなった場合、チャンネル数に限りのあるテレビ放送だけでEFLの全36試合を毎週流すというアイデアは現実的ではない。

従って、このブラックアウトの議論とストリーミングサービス(テレビ局が提供するものも含め)での試合配信という議論は不可分な関係にある。しかし後者の試合配信については、前述したような歓迎ムードが存在する一方で、全てのクラブが大手を振って賛成しているわけではない。


主にL1以下の一部のクラブが(現行の)ストリーミングサービス案に反対する理由、それは収益の分配を巡る問題だ。



議論の前提として、このブログに辿り着いてくださっている方にはもう馴染み深いであろうiFollowについて簡単に説明する。これが前述した17/18シーズンからEFL主導で導入された試合ストリーミングサービスの総称で、年・月・あるいは1試合単位から用意される配信チケットを購入することで、web上で各クラブの試合を生観戦できるプラットフォームだ。


EFL Official Website - iFollow & Streaming


そもそもこれは物理的に試合に足を運ぶことができない国外に居住するファン向けに導入されたサービスで、当然英国外の登録者はその国の放映権者経由で視聴可能な国際配信カード以外(これもクラブによっては見れる場合もある)の全試合の映像を見ることができる。


この理念は上述したような背景の中で徐々に拡大解釈されてきており、イギリス国内のファンも、現在では土曜15時キックオフとSkyで放送試合以外のゲーム(ミッドウィーク開催など)は配信を通じて見られるようになった。


しかしここで問題視されているのが、販売された配信チケットの収益の取り分だ。本来ファンがスタジアムに足を運んでフットボールを観戦する際、その試合のチケット代や売店での飲食料など、所謂「マッチデイ・レベニュー」は全てホームチームの取り分となる(その一部がEFLに納められる)。しかし現行のiFollowのルールでは配信チケットの収益はそれを販売したチーム側、つまりホームもアウェイも関係なく、そのファンが応援しているクラブに入るようになっているのだ。


引いてはこれが、大きなファンベースを抱えるクラブのみを利し、クラブ間の格差を広げるだけのルールであると批判する勢力が存在している。このブログではお馴染みのアクリントン・スタンリー会長、アンディ・ホルトなどはその急先鋒で、昨年夏にはこの件でEFLに対する公開書簡をTwitter上で提出したことが話題となった。(彼は昨年末になぜかTwitterアカウントを削除してしまったため、ここではリンクを貼ることができないが…)


以前から何度か説明しているSkyによる放映権料の異常な分配バランス(チャンピオンシップ80%, League One12%, Laegue Two8%)があり、また現在ダービーやシェフィールド・ウェンズデイといったビッグクラブとアクリントンのようなスモールクラブが混在していることも相まって、この問題がLeague Oneで特に大きな論争を生んでいるのも不思議なことではない。

パンデミックの影響が色濃く残った20/21シーズンにはアウェイチームが販売したチケット収益の一部がホーム側にも分配される特別ルールが導入されていたが、昨シーズンからこの仕組みは元に戻ってしまった。


共産主義的な仕組みが残るイングランドのフットボール界において、ホームゲームを主催することによる金銭的負担のカバーを重視すべきとするスモールクラブ側の主張はよりコンテクストに沿ったものであるし、一方でストリーミングにかける負担はさほどないことやそもそも「自分たちのファンなのだから自分たちが収益を得るべき」とするビッグクラブ側の意見にも否定すべき理由は見つからない。放映権問題とはややズレるが、これはこれで根深く重要な問題である。


そのような背景もあり、72クラブの中にはiFollowの仕組みから離脱し、独自のストリーミングサービスを立ち上げているクラブも増えてきている。現在は29クラブが独自プラットフォームに移行しており、来シーズン以降その数字はより増える見込みだ。


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話を戻すと、EFLが公に「ブラックアウト撤廃」のスタンスを表明したのはこれが初めてのことで、それ故にブロックバスターな一連の流れが2024年に向けて動き始めた。


RFP公表の翌日、“Broadcast Sport” によるEFLのCCOベン・ライトの独占インタビューが公開され、その中で彼は変革への意欲を力強く語った。


「いくつかの事実を避けて通ることはできません。何よりもまず、試合数の問題があります。シーズンを通してリーグ戦1,656試合が展開される中で、もちろん我々にとっての最大の市場である英国内においては、その週末の試合の内5%しか生放送できていないのです。果たしてこれは現代的なアプローチと言えるでしょうか?重要な点として、我々は消費者の需要に応えられているのでしょうか?調査を重ねた結果、ファンの間にはより多くのコンテンツを求める需要が確実に存在しています」


「(ブラックアウトを撤廃する、と)正式にドキュメント内に書いたわけではありませんが、『ストレステストをしたい』という旨は書きました。このモデルは長い間、あるべき理由によって存在してきたものではありますが、一方で世間の購買行動が変容していることも事実です」


https://www.broadcastnow.co.uk/broadcasting/everythings-open-efl-on-its-latest-rights-strategy/5175402.article




放映権の進むべき方向

このRFPにおいて、入札候補者たちは11月21日の午後5時までにアイデアを提出することが義務付けられていた。つまりもう募集期間は終了し、現在はEFLによる審査プロセスに入っていることになる。


Telegraphによれば初期段階で競争をリードしていたのはDAZNとされている。また他には北欧系のストリーミングサービス “Viaplay” の参入を報じたニュースもあり、もちろんAmazonやApple、Netflix、Facebook、Google、さらに国内TV局のSkyやBT Sportといったバラエティに富んだ名前も候補に挙がっている。


Viaplay targeting EFL TV rights in the UK


Apple TVが2月1日に全世界向けにローンチした “MLS Season Pass” は巨大プラットフォームによるフットボール放映権の形を窺い知る上で有用なサンプルケースと言えよう。MLSと10年契約を結んだAppleは、過去映像やドキュメンタリーなども含めた幅広いコンテンツをApple TV上でカバーし、1シーズン99ポンドで全試合を視聴可能にした。


Apple TV release MLS Season Pass worldwide and announce free opening weekend


まだ選考プロセスについての情報は何も出ておらず、依然ベールに包まれたままのEFL放映権の未来は、どこにあるのだろうか。



まず一つ確かだと思われるのは、この新契約の締結とともにブラックアウトは撤廃され、EFLの試合がより開かれた場所になるであろうということだ。


今のところ漏れ聞こえるRFPの内容、そして関係者の話を総合すれば、EFLの本音がその方向に向かっていることは疑う余地もない。

そしてクライアントからのRFPに沿った提案を行う上で、そのクライアントの意向が明らかに見え透いている場合には、それにあえて背く計画を作ることは全くもって合理的な考えではない。


今回のRFPには、現状プレミアリーグと比較して放映権料の面では格段に劣るEFLというコンテンツをより魅力的にするにはどうすればいいか、という疑問を投げかけるコンサルティング的な要素も多分に含まれている。しかしEFLがプレミアリーグの下部リーグである以上、その疑問に対する答えはそう多くは存在し得ない。もちろん実力の拮抗具合やファン文化のユニークさといった要素には非常に大きな価値があるが、多くのクラブが目標とする昇格争いに唯一無二の意味を生んでいるのは、その先に待つプレミアリーグという存在の大きさだ。


ならば自助努力の範囲内でなんとかなる部分の一つとして、必然的に「見せ方」が浮かび上がる。プレミアリーグにはないパッケージ、プレミアリーグでは見れない時間の試合。最終的に24/25シーズンからどんな形のサービスが提供されようとも、今現在議論の出発点となっているのは、この英国フットボール界に残る最古の神話の破壊、そして現状のメディア環境やファンの需要に合わせた形での創造である。


市場というものは、常に変わりゆくコンシューマーの要望に応じて姿を変えられる、高い可変性を持つものでなければならない。今英国のフットボール界が直面している課題は、映画や音楽に代表されるエンターテインメント業界のメインストリームが数年前に通ってきた道だ。人々は便利さを渇望し、時代はサブスクを求める。フットボールはファンのためのものだ。


オンライン上での試合配信の隆盛に伴い、ここ数年は「違法配信の氾濫」という無視できない問題が発生している。プレミアリーグやEFLは違法配信者の摘発に注力し、一定の成果を挙げてきた。しかし今の放映権を巡る状況が一変しない限り、どうしたっていたちごっこになることは目に見えている。高まった需要と旧態依然の供給、人々の我慢のダムはとうに決壊の時を迎えているのだ。


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もちろん熟慮すべき種々の問題も残されている。契約がどんな形態になるにせよ、放映権分配は今よりもずっと理に適った形にしなければならない。スタジアム来場者数について何らかの留保を付ける必要もあるだろう。そして配信によって今よりは曖昧になるであろうホームとアウェイの境界線は、英国フットボール界を特段ユニークで魅力的なものとしている互助会的な考え方そのものを覆してしまう可能性すらある。


何より忘れてはならないのは、プレミアリーグやEFLの「さらにその下」のグラスルーツだ。土曜15時にテレビで試合が見れないからこそ、サポートするチームがアウェイ遠征に出た週末に多くの観客が足を運ぶロンドンやマンチェスターのノンリーグ所属クラブがある。



これら全てを踏まえた上で、もし私が入札候補者としてEFLへの提案を作成するとしたら、以下の2点をメインテーマに論を組み立てる。


①スタジアム観戦を促すための仕組みを付けたサブスクでの全試合配信

サブスクモデルを用いた全試合配信は、やはりもう「試さなければいけない」フェーズに入っているはずだ。世界的に見ても非常に多い試合数を一元管理するEFLだからこそ箱売りに価値が生まれやすく、長年の歴史があるからこそ人々からの需要も根強い。また現在発生している放映権料分配の問題も、元はと言えばTV契約(チャンピオンシップが年間のほとんどの放送試合を占めているので放映権料分配も偏る)で限られた試合数しか流せないことが原因であるため、その意味でも(少なくとも議論の前提として)横並びで映像が制作される環境を作る必要がある。


問題は、スモールクラブが危惧する入場者数・マッチデイレベニュー減への対策だ。ここはサブスクモデルだけでは対策に不安が残る箇所であるため、契約者特典としてチケット代の割引等のサービスをつけて、実質的な放映権者から各クラブへの収入補填を保障するのはどうか。そもそも試合会場でしか得られない体験が消え失せるわけではなく、実際にこの1,2年でも観客数の減少は見られないため、心配自体が杞憂に終わる可能性もある。しかしこの施策のもう1つの利点は、違法ストリーミングへの牽制も兼ねていることだ。オンライン上に留まらない契約のメリットを付帯させることで、より現実に根差した新たなファンとフットボールの関係を築くことができるはずだ。


②試合のKO時間変更

試合の見やすさという意味で、全試合が放送できるようになるのだとすれば、例えばチャンピオンシップ、League One, League Twoでキックオフ時間をズラしてしまうということができる(ブンデスリーガと同じ仕組み)。ケータリングの売れ行きなどは確かに時間によって変わってくるだろうが、「このリーグは〇時キックオフ」という決まりを作っておけばそれに合わせたメニューの開発などの自助努力も可能だ。金曜や日曜に遠方でのアウェイゲームが入ってしまったとしても、それこそ全試合放送しているプラットフォームで「〇km以上離れた相手との金曜夜の試合は放映権の分配をややホーム側に傾斜する」等の臨機応変な対応ができればなおいい。


「土曜3時のフットボール」は英国に代々根付く伝統でもあるため、ある程度心情的な反発は免れないかもしれない。しかし個人的には、時間が変わるだけなら「魂を破壊する」と言えるほどの変革ではないと思うし、これくらいのことは時代の変化に応じて受け入れていかなければならないのではないか。それによってより多くの人の目に留まる可能性が高まり、クラブの収益構造にポジティヴな影響が見込め、暗示的に数々のノンリーグのチームにも道を示せるのだとしたら。考えてみる価値もない、とは決して言えないはずだ。



もちろんこれらの意見はビジネスの一環として考えたわけではないので、おそらくツッコミどころはいくらでもあるはずだ。各プラットフォーマーがどのような勝機を見出し、どのような提案を行ったのかはまだわからない。


考慮しなければいけない点はもうひとつある。それはリック・パリーが、以前から「チャンピオンシップとプレミアリーグをワンセットにして考えるべき」という考え方を一貫して示している点だ。


彼は最近もFTの記事において、理想的な放映権の在り方として「プレミアリーグとEFLの放映権をパッケージ化し、その放映権料を75:25に分割した上でプールして、順位に応じて配当する」という構想を披露している。彼自身が言っているようにプレミアリーグの下位とチャンピオンシップの上位の差を縮めるという意味では良いアイデアに思えるが、League OneやLeague Twoが抱える課題に最もコミットしたものとは言い難い。


https://www.ft.com/content/f8eb06ff-ccc4-4d92-8b48-5ed53dc6f83a


依然としてEFL会長の脳内には「プレミアリーグ2」の理想があるように見える。それがいいことなのか悪いことなのか、現状では判断をつけようもないが、この放映権問題が何らかの形でそこに影響を及ぼす可能性があることだけは確かだ。




国外放映権への影響

最後に、今まで書いてきたのは英国内における放映権の話だが、当然これは国外向けの放映権にも関係してくる話である。


記事の冒頭にもあるように、日本国内においては22/23シーズンからDAZNでのEFLの放送が始まっている(しかも2年契約だという)。もちろん推測の域を出ないが、おそらくは中山雄太のハダースフィールド移籍に伴う放映権獲得と見られ、かなり急な話だったのか発表がなされたのはシーズン開幕後(というか、何試合か放送した後)の8月16日だった。


DAZN extends European and Canadian EFL deals, enters new Japanese agreement


EFLの国外向け放映権は、まず “Pitch International” というイギリスのマーケティング会社に一括で販売され、そこからPitchが一元管理する形で世界各国の放送事業者に再販されている。Pitchは2012年からこの役割を担っており、現行の契約は2021年7月のRFPをもって結ばれたもの。この時EFLは、23/24シーズンをもって切れる国内放映権契約にタイミングを合わせる目的で、22/23と23/24の2年契約を結ぶパートナーのみを募集していた。


https://pitchinternational.com/case-studies/efl-carabao-cup


即ち24/25シーズン以降は、日本をはじめとした国外向けの放映権配信の形態にも大きな変化が生じる可能性が高い。この点からも、EFLが次回の放映権契約において、AmazonやAppleといったグローバル展開を行うプラットフォーマーからの入札を望んでいることが伺える。


我々国外のファンにとっての現状の最大の問題といえば、言うまでもなく「全試合が放送されない」点だ。毎節2~3試合以外は放送されないという状況は何も日本のDAZNに限った話ではなく、全世界どこのEFLライツホルダーであっても同じだ。


それがなぜかと言えば、その2~3試合以外は「映像がない」からである。いや、正確に言えばiFollow用のものがあることはある。しかしiFollowをご覧になったことがある方ならおわかりだと思うが、これはテレビ放送に耐え得るような質の映像ではない。国際配信カードに選ばれているSky制作の映像と比べれば、リプレイの数やカメラ台数の違いは一目瞭然だ。


だから、パッケージに組み込まれている試合数自体が限られているのだ。これはひとえに(ブラックアウト前提で人員が割かれている)EFL自体のリソースの少なさによるもので、毎節放送されているのは①Skyによって彼らの放送試合に選ばれたカード(=土曜15時のスロットからズラされている試合。ダービーマッチや上位対決など注目試合が多い)、②土曜15時キックオフの中からEFLがセレクトした1試合(制作クルーがつきちゃんとした映像になる、それなりの注目カードが多い)しかない。この2つが国際配信カードと呼ばれるものである。


(ちなみに、今後の国際配信カードの予定については以下のページから確認できる)


EFL Official Website - Upcoming TV Games


たまにTwitter上などで「なぜハダースフィールドの試合を放送しないのか」というような苦情をDAZNに対してぶつけている人を見かけるが、放送したくてもできないのだ。


もし彼らが放映権獲得前にこれを知らなかったのだとしたら大変痛恨だっただろうし、裏を返せば、(何人か日本人選手がいたのにもかかわらず)なかなか日本でEFLの権利を獲得する放送局が現れなかった理由がこれなのだろう。


しかしここまでの議論を鑑みれば、2024年以降この状況は大きく変化する可能性がある。何せ映像がなかったのは出し先がiFollowしかなかった(=資金もリソースもなかった)からであって、国内向けにしっかりとした映像が作られるようになるのであれば、それをあえて国外に対して流さない理由がない。


今のチャンピオンシップはプレミアリーグ、ブンデスリーガに次いで世界で3番目に平均入場者数が多いリーグだ。資金力の向上に伴い、以前にも増して能力の高い選手が活躍の場としてここを選ぶようになり、絶大なファンベースを抱えるプレミアリーグのクラブからのローニーも多数在籍している。そして今シーズンのヴァンサン・コンパニとバーンリーのように、極上の質を毎週発揮するチームもいる。


国内向けのブラックアウト撤廃はこうして国外放映権の動向にも大きな影響を与え、リーグの収入増に寄与する可能性が非常に高い。そしてもちろん、それは全世界のファンが歓迎する動きとなるだろう。



EFLの、そして英国フットボール界の夜明けの時が確実に近付いている。

放映権分配などを理由に現行システムに反対する勢力も、実のところストリーミング・全試合配信自体に反対しているわけではない。この動きの行く手を阻む存在は、今のところまったく見当たらない。


なぜなら、原理原則の部分をしっかりと注視すれば、これが商業主義の成れの果てではないことが明らかだからだ。そこには需要があり、サービスプロバイダーとして応えるべき声がある。エネルギー不足、物価高騰に苦しむイギリス国民の訴えがある。


今彼らが向かおうとしている方向は、きっと正しい道のりだ。

だから大きな期待と興奮を胸に、来年にかけてのEFLの選択を見守ることにする。




※追記

2023年5月5日、EFLはSkyと新放映権についての契約を結んだことを発表。結果的にブラックアウトは継続となりながらも、土曜15時キックオフの試合数を減らす「プレミアリーグ型」の実施形態に移行することに。





参考文献


EFL takes step towards ending 3pm blackout


How streaming has become EFL's latest battleground


EFL could abolish 3pm TV blackout - next TV deal will be for the digital age


'These pirates are becoming smart': Football's fight against illegal streaming


https://www.broadcastnow.co.uk/broadcasting/everythings-open-efl-on-its-latest-rights-strategy/5175402.article


https://www.broadcastnow.co.uk/broadcasting/efl-to-test-ending-3pm-blackout-during-world-cup/5176622.article


Premier League will not scrap Saturday 3pm blackout


Championship return excites EFL chief ahead of plans for broadcast revamp


Viaplay targeting EFL TV rights in the UK


Apple TV release MLS Season Pass worldwide and announce free opening weekend


https://www.ft.com/content/f8eb06ff-ccc4-4d92-8b48-5ed53dc6f83a


DAZN extends European and Canadian EFL deals, enters new Japanese agreement


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