「命綱」か、「共産主義」か? League One, Twoサラリーキャップ導入の是非と英国フットボールの未来予想図 - EFLから見るフットボール

「命綱」か、「共産主義」か? League One, Twoサラリーキャップ導入の是非と英国フットボールの未来予想図



(追記)
2021年2月9日、PFAが訴えていた導入プロセスの違法性が独立裁定パネルに認められ、サラリーキャップ施策は撤廃されることになりました。





来たる20/21シーズン、3部・4部リーグへのサラリーキャップ制度の導入により、EFLは重大な転換期を迎える。欧州フットボール界にとって真に未開の地と言うべきサラリーキャップの是非については、発表から2週間が経った今でも侃侃諤諤の議論が繰り広げられている。


ここで改めてその背景にある問題意識を説明する必要はないだろう。ベリーボルトンマクルスフィールドを始め、多くの街が誇るべきフットボールクラブの存亡危機に瀕する昨今、現状のフットボールピラミッドが抱える構造的な欠陥はあまりにも広く知られ、改善を迫られるようになった。

パンデミックによる未曽有の危機が下部クラブを更なる窮地に陥れる中、失政の責任を追及され続けてきたEFLが満を持して踏み切ったサラリーキャップ施策。その影響や生じうる利害の対立について、様々な視点から考えていく。 

なお今回は、816日付 “The Athletic” の記事 Disgraceful, it’s communism’ or ‘protecting clubs’? The salary cap debate… から多くの引用を行っている。この記事について執筆者のマット・スレイター記者自身が820日配信の “Going Up Going Down Podcast” で解説しているので、併せてチェックされてもいいだろう。






【サラリーキャップによって何が変わる?】


今回導入されるサラリーキャップのルールについて改めて紹介しよう。


まず大前提として、制限の対象となるのは個人単位ではなくチーム単位の給与総額だ。

その上限はLeague Oneが年間250万ポンドLeague Twoが年間150万ポンド。つまり3部のチームであれば、「1人の選手に年間250万ポンドを払い、残りの選手は無給」という形式を取ることも理論上は可能になる。

この上限額を考える上で非常に参考になるデータがある。お馴染みの “Price of Football” ことキーラン・マグワイア氏がまとめた18/19シーズンのLeague One給与総額表によると、多くのチームが上限額を超えており、特にサンダランドの額が一際異彩を放っていることがわかる。



またこの給与総額には、純粋なグロスベースサラリーだけでなく、様々な権利関係の支払いも含まれる。具体的には代理人手数料肖像権料税金宿泊費等の諸経費、そしてボーナスフィーだ。

ただし出来高払いの内、昇格やカップランに伴うボーナスはキャップから除外される。また21歳以下の選手ローンアウト中の選手の給与も、総額の計算には入らない。

スカッドの登録人数も20/21シーズンは2221/22シーズン以降は20に制限される。こちらも21歳以下の選手は総数から除外される。


そして各クラブにとって大きな意味を持つのがトランジション・アレンジメントである。これは88日(施行日)以前に契約を結んだ選手、また今後降格してくるクラブを対象とした措置で、サラリーキャップのない状態で結んだ契約が切れるまで、その選手が「ディヴィジョン平均の週給」扱いになるという取り決めだ。

ディヴィジョン平均の週給」を実例に当てはめて考えよう。
スカッドサイズが22人の20/21シーズンの場合、3部での平均は年間114,000ポンドとなり、週給では2,185ポンド。4部では年間68,000ポンドで、週給に直すと1,311ポンド。またスカッドが20人になるそれ以降のシーズンでは、平均も年間125,000ポンド75,000ポンドにそれぞれ上がる(もちろんそれ以外の出来高があるので、これはあくまで概算だが)。
いずれにせよ、このトランジション・アレンジメントのおかげで、高給取りを抱える降格チームなども当面の間はキャップの範囲内に留まることができるようになる。

最後に、ルールを運営する上で重要になるのが罰則だ。

上限額を超えた全てのクラブは、リーグの定める「オーバーラン・ポリシー」によって罰せられる。これは北米スポーツにおける贅沢税システムによく似ており、各クラブは上限額を1ポンド超過するごとにその分を罰金として支払い、最終的に集まった額がルールを守ったクラブに再分配される。

さらに超過率が5%を超えると独立仲裁委員会による処分対象となり、勝ち点剥奪などを含めたあらゆる制裁が検討されることになる。


最終的な導入決定までのプロセスにおいては、それぞれのディヴィジョンで全体の3分の2以上の賛成票が必要となるクラブ間投票が行われた。

League Twoではブラッドフォードサウスエンドを除いた22チームが賛成票を投じた。ディヴィジョン内随一の資金力を誇るサルフォードも当初は反対の構えを見せていたが、共同オーナーの一人であるギャリー・ネヴィルが話し合いの中で意見を翻し、賛成に回ったという。

League Oneではちょうど3分の2にあたる16チームが賛成した。反対票を投じたのはサンダランドポーツマスイプスウィッチチャールトンハルオックスフォードプリマスといった主に資金力豊富なチームで、他に自らが抱える問題で手いっぱいのウィガンが投票を棄権している。

ここからはこれらのチームが主張する反対意見を中心にサラリーキャップを巡る議論を紹介していくが、その前に忘れてはならない「当事者」からの苛烈な反応に触れておく。



PFAの動き】


「英国フットボール界へのサラリーキャップの導入は驚天動地の出来事です。業界内に幅広く、重大な影響を与えるでしょう。だからこそじっくりと考慮し、理解するための時間を費やさなければならなかったはずです」


EFLには選手の労働条件に変化をもたらす可能性のある問題についてPFAPFNCCProfessional Football Negotiating and Consultative Committee)に意見を求める法的義務があります。しかし協議は行われておらず、そのため導入するキャップが違法かつ執行能力のない、誰しもにとって利のないものになる可能性を危惧しています」



当然のことながらPFAは、サラリーキャップ導入に真っ向から反対する立場を示している。クラブ間投票による導入決定後にはEFLに対して仲裁申立書を送付し、スポーツ法の第一人者であるニック・デ・マルコ弁護士を代理人に選定した。

クラブ間投票の前日に発表された17ページにも渡る提案への抗議文書では、主に2点の問題点が指摘されている。


選手組合側が最も問題視しているのは、導入に至るまでのタイムスケールの短さである。前述した声明文にも言及があったように、今回の件はリーグ側の一方的な判断で話が進んでおり、各ステークホルダーに対する相談・説明の義務が履行されていないという主張だ。

ヨーロッパで導入されている他のコストコントロールシステムを参照すると、F1UEFA、ラグビーユニオンといった組織がコンサルテーションから施行までに1年半から3年を費やしているところ、EFL1年以内にこれらのプロセスを完了させようとしているという。後述するが、この点はクラブ側の主張にも共通している。

PFAが掲げるもう一点は、過去10年におけるLeague One, Twoにおける給与と収入の比率及び収入格差の推移が安定しているというデータを根拠に、サラリーキャップのような劇的なルール変更は必要ないとする主張である。しかしこの論点は、新型コロナウイルスの流行による各クラブの経営危機を一切考慮していないだけでなく、実際にベリーマクルスフィールドのようなクラブが生まれてしまっている現状も全く説明できていないため、さしたる説得力を持つものではない。


PFAは「昨今のフットボール界の状況を鑑みれば、リーグが何らかの対策を講じる必要がある」こと自体は認めている。サラリーキャップがその解決策として相応しいものなのかどうか、彼らは法廷にその是非を委ねる構えだ。



【各クラブの動き】


「ありえないことです。イングリッシュ・フットボールリーグに共産主義が持ち込まれたのですから。私は今や、全盛期を迎えた選手に週給4,500ポンドの新契約を提示することすらできません。その選手がそれに値する活躍を見せていて、かつクラブとしても支払い能力が十分にあるのにも関わらず、全てを均一化するキャップのせいでそれができない。どこまでもアンフェアですよ。現状ではこのレベルの選手たちは平均して2,500ポンドほどの週給を受け取っており、そのキャリアも決して長くはない選手がほとんどです」

「投票結果は尊重しますし、決まってしまったからにはその枠組みの中でやり繰りします。それでも我々はこれまでのシステムの中でも十分安定した経営を行ってきましたし、これは財政の安定性などではなく、競争力の低下と明確な貿易制限をもたらすだけの施策です。PFAにはこの決定にチャレンジする権利がありますし、覆すチャンスも十分にあるでしょう。繰り返しますが、これはありえないシステムですし、選手たちへの敬意を欠く決定ですよ」

ポーツマス マーク・カトリンCEO


EFLはこうでもしなければ、政府による介入を受け入れるしかありません。予算を減らせば経営の失敗もそれだけ減るでしょう。一部の知性を期待すべくもないオーナーのせいで、現行の自由市場の仕組みは破綻しかけています。EFLはターニングポイントを迎えました。長い道のりですが、その先にはより安定した構造が待っているでしょう。これは称賛に値することです」

「(暗にポーツマスを指して)何人かのオーナーが愚痴を言うのは自由ですが、自らが代表者を務めるクラブがつい最近、財政危機に陥っていたことを忘れるべきではないでしょう。フットボールのオーナーシップが『クラブの存続を担保にした賭け』であってはなりません。(EFL 前CEOショーン・ハーヴィーの時代にはあまりにも介入が少なく、結果として彼のオフィス周辺にはいつもプラカードを持ったファンがたむろしていました。変化が必要な状況です。収入やファンベースの格差もあり、完璧なシステムというものはこの世に存在しませんが、EFLは『全てのクラブを守る』モデルを選ぶ必要があります」

アクリントン・スタンリー アンディ・ホルト会長)


「(サラリーキャップは意味のある施策ではあるものの)導入する上でのEFLのやり方は酷いもので、せっかくの機会が台無しです。コロナ禍での最大の問題は、クラブに収入がない状態での選手に対する給与支払い義務であり、これこそが騒動の初期段階から対処されるべき案件でした。しかしEFLは次から次へと失敗を重ね、それが結果的には更なる財政危機を呼んでいます。またPFAの側も歩み寄りを見せなかったのにも関わらず、その後になって『我々は誠実な対応をしていた』などと謳っているのです」

トランメア マーク・パリオス会長)


各クラブ間という視点から見た場合、まず浮かび上がってくるのは「持続可能性vs競争力」というアジェンダだ。

今回のサラリーキャップにおける一つの重要な論点は、給与上限額をディヴィジョンごとに一律管理するため、リーグ内における売上高やファンベースの差がほとんど無効化される点である。これがポーツマスカトリンCEOの言う「共産主義」であり、League Oneに所属するビッグクラブが揃って導入に反対する理由だ。

資金力のあるクラブが選手にその利益を還元できない状況は、「アンチ・コンペティティヴ」だというのが彼らの主張だ。他スポーツでの例を参照しても、通常サラリーキャップ制度はその上限額を収益と紐付けている場合が多く、今回EFLが導入しようとしている「ハードキャップ」は比較的締め付けの強い施策となる。そして導入に賛成したクラブの中には、少なからずこの制度を競争面に活かし、成績の向上を狙っているオーナーもいるだろう。

ではなぜEFLは今回、ハードキャップの導入でもって、明確に持続可能性を優先する方向に舵を切ったのか。それはこれまでの財政管理施策のコンテクストを踏まえた上で考えればわかりやすい。


この議論の中で見過ごされがちな事実の一つは、現状でも既にLeague One, Twoには「給与上限」が存在しているということである。

それは2014年から発効されている“salary cost management protocol rulesSCMP)だ。これはLeague Oneではクラブ収入の60%League Twoでは50%までを選手の賃金に流用できる額として定め、それ以上の過剰な給与支払いを抑制するFFPルールの一つだった。言い換えれば、歴とした売上高ベースの、「ソフトキャップ」の下でリーグ運営が行われていたのだ。

実際にポーツマスサンダランドは今回の議論の中で従前のシステムの継続を望む立場を明確に打ち出している。それでもEFLがハードキャップ導入に踏み切ったのは、SCMPにはあまりにも多くの抜け道があり、オーナーからの資金注入を「クラブ収入」として容易に給与計算に入れられる仕組みになっていたからだ。


売上高を偽装できるSCMPは、クラブ(オーナー)からの過剰な支出を抑制するためのシステムとしては何の効力もなかった。またルールの複雑さ、当時の(ショーン・ハーヴィーを中心とした)EFLボードによる無関心も相まって、SCMPはほぼ無意味なルールと化していたのである。

どれだけ立派なルールがあっても、それを適切に監視できず、違反者を取り締まれないようでは宝の持ち腐れだ。そのためEFLはハードキャップを導入し、明確な数値基準を設けることで、ルールの遵守を求める姿勢と管理しやすい環境の整備を狙ったのだ。


翻ってそれは、EFLが過去の自身の失敗を認めた上で(もっとも上層部のメンバー自体が変わっているが)、現在の状況を改善するためのドラスティックな変化に打って出たことを意味する。

「過去の過ちを認める」ことは決して簡単ではない。まして今、これだけの厳しい視線がEFLに対して注がれる中である。個人的な意見を言えば、リック・パリー会長就任後のEFLによる諸問題への対応には十分な程度の一貫性があると感じているし、今回のソフトキャップからハードキャップへの移行の論理も腑に落ちる部分が大きい。

むしろ今回の件でEFLに問題があるとすれば、PFAと反対クラブの両方から提起されている「ルール施行までの速さ」の方である。PFNCCPFAへの相談・説明義務を怠ったこと、また導入に際してチャンピオンシップのクラブからの投票プロセスを踏んでいないと思われる 3,4部限定のルールであっても、施行時には全ディヴィジョンからの賛同が必要とEFL規定に書かれている。何らかの事情で当案件が特例とされている可能性もあり) ことを考えれば、今後の法廷闘争ではこちらの点がより大きな論点になるのではないだろうか。

ただそれにしても、コロナ危機による各クラブへのダメージは深刻なものであり、一刻も早く有効な措置を講じる必要があったと考えれば、少なくとも一定の理解には値する動きだ。またリック・パリーは突然ハードキャップ制を主張しだしたわけではなく、5月の記事でも紹介したように、かねてから給与総額を制限する形でのサラリーキャップ導入に言及していた。


リーグ内での収入格差は(特にLeague Oneでは)確かに存在しているし、それに不平等を感じるチームが出てくることも当然理解できる。しかしこの問題を考える上での出発点となるべき事実認識は、「EFLのほぼ全てのクラブで支出が収入を上回っており」、「主な収入源となる観客が完全に戻る時期の見通しも立っておらず」、「現状のルールでは違反者(ほぼ全クラブ)を取り締まれていない」という3点だ。

それは確かにEFLの責任によるところが大きい。しかし、だからといって無法地帯に加担しているオーナーサイドに責任がないということにはならず、「クラブの存続を担保にした賭け」が至るところで行われているのが現実だ。その割を食うのは選手であり、スタッフであり、ファンである。

今回の給与上限額よりも多い週給の契約を結んでいたベリーの選手たちは、昨夏にその何倍にも及ぶ損失を被った。いくら良い契約があったところで、クラブがその給料を払えないのであれば、そんなものには何の意味もないのだ。

それでも「自分たちのクラブは大丈夫だ」と声高に訴えるのであれば、早く結果を出してそんなリーグとおさらばしていればよかっただけの話である。

EFLはその過失を認め、同じ失敗を繰り返さないための施策に出た。現状を客観視し、今打てる最善の策と思われるものを提案し、それが必要条件のクラブからの賛同数を得た。これこそが民主主義のあるべき姿であり、統括機構としての最低限の仕事と言えるはずだ。

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【サラリーキャップは「中長期策」として相応しいのか?】


もちろん、議論が尽くされないまま新しいシステムが導入されるのは、誰しもにとって決して望ましい状況ではない。短期的なソリューションとしてサラリーキャップは不可欠という視点と、それが今後も続けていくべきシステムなのかという視点は、切り離して考える必要がある。

重要なのは、「何のためにサラリーキャップを導入するのか」という目的意識だ。今回の場合、その目的はもちろん「財政危機に陥るクラブを減らすため」である。しかし世界を見渡した場合、同じ目的でサラリーキャップを導入しているプロスポーツは意外に少ない。

例えばサラリーキャップの本場とも言うべき北米スポーツでは、給与のコストカットという意味合いもなくはないが、一番の目的とされているのは「競争力の向上」である。それはNFLNBAがクローズドなリーグであり、ドラフト制度なども通じて戦力の均一化をルールに求めなければならない構造になっているからだ。

チューリッヒ大学のDietlら(2009)は、サラリーキャップの社会福祉的側面をゲーム理論から調査した研究の中で、サラリーキャップがプロスポーツにもたらす影響を以下のようにまとめている。

「リーグが既に戦力的に拮抗している場合は、サラリーキャップはリーグ全体のレベルを下げてしまうため、ファンの幸福度を下げることに繋がる。この場合戦力のバランスをよりならすことの意味はさほどない。逆に戦力的な不平等が発生している場合は、サラリーキャップによってファンの幸福度とクラブの収益が上昇する」

「いずれの場合にも、キャップを設定することにより競争力のバランスは向上し、給料のコストをコントロールすることができる」

Dietlら(2009, P14


Dietlらはさらに、欧州フットボール界にサラリーキャップが導入されない理由について、北米スポーツとの統治機構の組織的な違いを理由に挙げている。しかしそれは今回の本題ではないので、ここでは「競争力」という言葉に注目する。

EFLが導入の目的とする「コストコントロール」については、理論上は有効な施策になり得るだろう。一方、上で説明してきた議論の中で、いくつかのクラブが挙げる反対意見として「アンチ・コンペティティヴ」というものがあった。これは一見、過去の知見とは反目する意見のようにも思える。

ここに北米スポーツとフットボール界の違いが如実に表れる。繰り返すが、北米スポーツはクローズドなリーグであり、競争力の担保をルールに委ねている。しかしフットボール界では、移籍・国際試合を通した他国との関係や昇降格などを通じて、競争原理をそれに頼らずとも確保できる構造が既に存在しているのだ。

そこにサラリーキャップが入った場合どうなるのか。これは前例のないことなので、今後状況を注視するしかない。ただし普通に考えれば、人材の国外への流出、相対的なリーグレベルの低下といった事象が起こる可能性も十分に考えられる。

そして何より重要に思えるのが、今後の国内他ディヴィジョンとの関係である。



【チャンピオンシップはどうなる?】


今回のルール改正では、同じEFLの中でもチャンピオンシップだけがサラリーキャップの適用を見送られることになった。

もちろんこの点はポーツマスやサンダランドからの不満に繋がっており、また実際にEFLも今後導入に向けた協議を重ねていく旨を発表している。しかし今回決断を急がなかったのは、チャンピオンシップ内のオーナーたちに全く導入への機運がなく、投票を行ったところで否決されるのが目に見えているからだという説が根強い。

これはクレバーな動きである一方で、サラリーキャップへの理解が得られるまでに一体どれほどの時間がかかるのかということを考えれば、最も問題のある財務諸表を量産しているリーグへのサラリーキャップ導入の見込みが立っていないということも意味している(仮に導入される場合でも、上限額は1800万ポンドとなる見込みで、L1, L2とは大きな開きがある)。

この状況が続く限り、ソフトキャップでの運営が続くプレミアリーグ・チャンピオンシップと、ハードキャップを導入するLeague One, Twoの格差は広がっていく一方だろう。


言うまでもなく、それは「プレミアリーグ2」発足への大きなプッシュになり得る状況だ。

前述した「競争力」の問題で言えば、League One, Two内部でのコンペティション・バランスは間違いなく向上する。そこまでは北米スポーツの原理に基づいて語れることだが、そこから上の、英国フットボール界のリーグ構造という面から見た場合には、むしろリーグメンバーの固定化に繋がる懸念が出てくる。

サラリーキャップ反対クラブが主張する「アンチ・コンペティティヴ」はこの点を危惧した言葉だ。プレミアリーグからLeague Twoまで、「プロリーグ」である上位4ディヴィジョンの間には大きすぎる溝が広がるべきではない。しかし1992年にその前提が崩されて以来、その格差は年々広がり続けている。

そして今回の一件は、チャンピオンシップまでもがEFLの手に負えないリーグになってきているという残酷な現実を示した。そもそもPL2構想を推し進めているのは、自分たちもPLの恩恵に預かりたい2部の「プレミアリーグ予備軍」のオーナーたちである。真下のディヴィジョンがディストピアと化した今、EFLへの不満は強まり、その動きがより強まることは目に見えている。


以前の記事でも述べた通り、リック・パリーにその動きを止める意思があるのかどうかは定かではない。忘れるべきでないのは、他でもない彼の下でプレミアリーグが設立されたということだ。

その先に広がるのは、英国フットボール界にとって望ましい未来なのか」。今最ももどかしいのは、この問題意識を最優先のプライオリティに置くことができないという状況である。何度も述べてきたように、今最優先とすべきは「全てのクラブを守る」という意識であり、もっと言えばそれすらも達成できていないという実情がある。

サラリーキャップ問題は下部リーグだけの問題ではない。それどころか現状のままでは、英国フットボール界の構造そのものに大きな変化をもたらす可能性が高い。L1, L2から始まったEFLの野心的な動きがどう波及していくのか、その答えは神のみぞが知るところだ。



【参考文献一覧】


Helmut M. Dietl, Markus Lang, and Alexander Rathke (2009) “The Effect of Salary Caps in Professional Team Sports on Social Welfare,” The B.E. Journal of Economic Analysis & Policy: Vol. 9: Iss. 1 (Topics), Article 17.











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