秋口以降、チャンピオンシップではFFP違反によるEFLからの告発が2件行われた。勝ち点剥奪は免れないと目される両チームの問題だが、具体的には彼らのどんな行動がルールに抵触したのだろうか?
ベリーのリーグ追放で幕を開けた悲しみのシーズンは、秋口に入って以降、EFLの最高府であるチャンピオンシップにおいても「フットボールとカネ」の問題を噴出させた。
11月、シェフィールド・ウェンズデイに対して提起されたスタジアム売却を巡る告発。
1月、ダービーに対して提起された支出過多による告発。
これらの問題は、昨今のフットボール界ではもはや定期的に見かける話題になってきているが、そのことの異常さについては一旦脇に置いておくことにしよう。
今回はフットボール・エコノミクス、特に今回2クラブの処分について争点となっているFFPのルールについて理解を深め、正しい知識を得ることを記事の目的とする。
この目的を果たす上で心強い味方となるのが、フットボール経済学の専門家として多くのメディアに出演しているリヴァプール大学のキーラン・マグワイア氏だ。
“Price of Football”というwebサイトの運営者として知られるマグワイア氏の特筆すべき点は、何といってもそのライトな語り口にある。
フットボール経済学は複雑な学問知識と考え方が入り乱れる分野で、彼のような「一般人向け」の解説ができる人材は非常に貴重であり、差し詰めイギリスフットボール界の池上彰(経済特化版)のような存在だと思ってもらえればわかりやすい。
件のシェフィールド・ウェンズデイ、ダービーに対する告発に際しても、マグワイア氏は自身のサイトをはじめ各所で解説を行っている。
【ダービー】
ダービーの場合、今回のFFP違反の告発にあたっては2つの論点が発生しているものと考えられる。
①減価償却費の計算、②スタジアム売却の是非、である。順に見ていく。
①の減価償却費の問題については、“Price of Football”の1月19日付の記事を参考にされたい。ここでは、移籍金がFFPルールの中でどのような働きをするか、そしてそのルールの中におけるダービーの方針の特殊性(=問題の根源)が解説されている。
(前提)
クラブが選手を獲得する時、そのクラブは選手が以前所属していたクラブに対して補償金を支払うことが多い。これを一般的に、移籍金と呼ぶ。
この移籍金は支払えば終わりというものではなく、「選手の価値」を考慮した減価償却費(amortisation fee)を同時に発生させる。減価償却費は(移籍金÷選手の契約期間)で計算される。
例えばマンチェスター・ユナイテッドは、19年夏にハリー・マグワイアを移籍金8000万ポンドの6年契約で獲得した。この場合の減価償却費は毎年1330万ポンドとなる(マグワイアの価値は1年で1330万ポンドずつ下がっていくという理屈)。
スカッド全体の減価償却費はその年のチームの支出とみなされる。即ち、FFP(P&Sルール)に用いられる計算の対象範囲内となる。
これら減価償却費の総額は、上位ディヴィジョンに所属する多くのクラブで、支出総額の中で年俸総額に次いで2番目に大きな割合を占めるものとなっている。
3年間のトータルで収支を計算するP&Sルールの下では、ある特定の年に収支や支出を集中させることがクラブにとって有益である場合が多い。
減価償却費を浮かせるための方法としては以下のようなものがある。これらはいずれも、監査人たちによって認められている手段である。
1. 選手の減損処理
期待に応えられていない選手に対して、「役立たず」、「金の無駄だった」などとすぐにこき下ろすファンは多いが、会計面においてもそれに似た行為が行われる場合がある。
15/16シーズン、アストンヴィラはプレミアリーグから降格することになった。
これはP&Sルール上、3年間で計1億500万ポンドまでの損失が認められているリーグから、3年間で計3900万ポンドまでの損失しか認められないリーグ(チャンピオンシップ)に移ることを意味する。
そのためヴィラは、プレミアリーグのルールが適用される15/16シーズンの収支になるべく多くの支出を詰め込もうとした。
具体的には、スタジアムと選手たち(会計上では無形資産とされる)の減損処理を行うことで、7960万ポンドの支出を15/16シーズンの収支に計上したのである。
(priceoffootball.comより)
これはこのように機能する。移籍金3000万ポンドの5年契約でやってきた選手がいる。この場合減価償却費は年あたり600万ポンドとなり、チャンピオンシップのP&Sルールにおいてはかなりの負担となる額だ。
しかし、移籍初年度にクラブが降格してしまったとしよう。この場合、クラブは選手の価値を再考することができる。
例えば現段階でのその選手の価値は、もう1000万ポンドしか残っていないと宣言することができるのだ。
そうすれば、選手の価値は(移籍金から初年度分の減価償却費600万ポンドを引いた)従来の2400万ポンドから1000万ポンドに下がったので、そのシーズンの収支には1400万ポンドの支出が計上される。
だがそれにより、後のシーズンで計算される減価償却費は、年あたり250万ポンド(1000万ポンド/4年契約)に抑えることができる。ヴィラは2016年に減損処理分として3500万ポンドを支出に計上し、その後のシーズンで(残る契約が平均値の3年だったと仮定した場合)年あたり1200万ポンド近くの減価償却費を抑えることに成功した。
中には減損処理を行った理由が明白なケースもある(怪我で長期離脱となってしまった場合、明らかに最初の移籍金が高すぎた場合、その選手がマリオ・バロテッリだった場合など)。
だが多くの場合、減損処理はコストを前の年に集中させる目的で使われる。
2. 契約を延長する
減価償却費の計算には契約期間が用いられるため、契約を延長することも年あたりの支出を抑えることに繋がる。
例:2019年1月1日に移籍金2000万ポンドの4年契約で加入した選手がいる。彼は2019年の終わりに2年間契約を延長した。
→2019年の減価償却費:500万ポンド(2000万ポンド/4年契約)
→2020年以降の減価償却費:300万ポンド((2000万ポンド-500万ポンド)/(3年契約+2年契約))
これによりP&Sルール上の計算では、年あたり200万ポンドを節約できることになる。
3. その選手を売却する
選手を売却する際に受け取る移籍金は、その時点での選手の簿価と比較される。
従って、ファンが(加入時の移籍金と比較して)損をしたと思っている移籍においても、会計上は収益が発生している場合がある。
例:2018年1月1日に移籍金4000万ポンドの5年契約(=減価償却費は800万ポンド)で加入した選手がいる。彼は活躍できず、2020年1月1日に移籍金2600万ポンドで売却された。
→この時点での彼の簿価は計算上2400万ポンド(4000万ポンド-(800万ポンド×2年))になっているので、この取引でクラブは200万ポンドの収益を生んだことになる。
ただこの計算を行うためには、正式に移籍が成立した日付を細かくチェックしておく必要がある。これがよく混乱の元になるからだ。
ダービーが2017年6月30日に提出した16/17シーズンの最終収支には、トム・インスをハダースフィールドに売却した際に得た収益が計上されていた。これはもちろんFFPの計算にも入るもので、通常は何の問題もない。
しかしながら、インスの移籍が実際に成立したのは、2017年7月に入ってからのことだった。即ちこれは、本来17/18シーズンの収支の中に入れられるべき取引だったのである。
(priceoffootball.comより)
いずれにせよ、クラブは移籍のタイミングを調整することによっても、会計面での収益を上げることができる。
4. 残存価値を見積もる(ダービーが行っている)
(ダービー メル・モリス会長)
ダービーが独自で選手評価に用いているこの手法こそが、今回EFLが最も問題視していると見られる部分だ。
他の全てのプレミアリーグ、チャンピオンシップに所属するクラブは、減価償却費の計算において、選手の価値が「契約終了時にゼロになる」ことを見込んだ計算式(前提の部分で前述したもの)を用いている。
これはもちろん、選手は契約終了時に「ボスマンルール」によってフリーとなり、クラブに移籍金を残さない形で移籍することが可能だからである。
ダービーも2016年まではこれに倣い、他のクラブと同じシステムで会計上の計算を行っていた。
しかし2017年から、彼らは「契約終了時のその選手の市場における残存価値」を考慮し、会計ポリシーの中に反映させ始めたのだ(これはダービーファンの間で「メルノミクス」と呼ばれる)
通常は読み流してしまいそうな軽い一文だが、これによりクラブは減価償却費を抑えることが可能になる。
ここに移籍金3000万ポンドの4年契約で加入した選手がいたとしよう。彼の減価償却費は通常の計算だと750万ポンドになることは、ここまでで説明してきた通りだ。
ここでメルノミクス方式を用い、クラブがボスマンを無視し、契約満了時のこの選手の価値を1200万ポンドと見積もっていたとする。
そうすると減価償却費の計算は((3000万ポンド-1200万ポンド)/4年契約)となり、最初の年から1年あたり450万ポンドに減額できるのである。
ダービーのアカウントを参照すると、17/18シーズンの移籍金及び無形資産の合計として年平均5730万ポンドが支出に計上されている。これに対し、このシーズンに計上された減価償却費は660万ポンドだった。
この数字は、通常の減価償却費の計算を当てはめた場合、ダービーは事実上移籍金を8.7年契約を結んだものとして計算しているということを意味している。
もちろん選手と8年契約を結ぶことはルール上認められておらず、また契約期間のディヴィジョン平均が3.7年であることからも、ダービーの数字の異常さが伺える。
またダービーが選手の残存価値をどのようにして算出しているのかについても、明確な説明はなされていない。平均的な選手が引退する年齢である35歳時からの計算を用いているとの説もあるが、真相は未だ闇の中である。
この問題に関しては、ダービー側もEFLの告発後に発表した声明の中で反論を寄せているが、こちらについては後で触れることにする。
まずは先に、告発の論点②のスタジアム売却問題について紹介したい。
なぜならダービー側の反論はこの②の問題についても当てはまることであり、またシェフィールド・ウェンズデイに対する告発も同じスタジアムを巡る問題が争点となっているからだ。
ダービーのスタジアム売却問題については、お馴染みの“Not the Top 20 Podcast”の1月20日配信分にマグワイア氏が出演し、解説を行っている。
*NEW POD*— Not The Top 20 Pod (@NTT20Pod) January 20, 2020
New jobs, new pods, same old EFL drama.
The chasing packs are on the march in all three leagues.
& @KieranMaguire joins us to explain the situation with Derby, #SWFC & the EFL.
Sp: https://t.co/V8yLfTZf2B
SC: https://t.co/BoGc0B9yjs
iT: https://t.co/BBjNc7Oir0 pic.twitter.com/CnpDC83Y8V
まず前提となるのが、2016年にEFLが行ったP&Sルールに関する規則変更だ。
この規則変更でEFLは、それまで禁止していた「スタジアム等の有形資産を売却し、その費用をFFP計算上の収益に計算する」手法を許可した(変更に際してEFLからの発表はなく、その理由も明らかにされていない)。
この手法はUEFAが定めるFFPのルールにおいては現在でも禁止されている。なぜならこれは、フットボールクラブにとって持続可能性のある経営プロセスではないからである。
ただEFLではこれが(なぜか)認められた。
このルール変更を機に、レディング、バーミンガム、アストンヴィラ、シェフィールド・ウェンズデイ、ダービーといったクラブ(いずれもチャンピオンシップのクラブということに注目してほしい)がスタジアムの売却を行い、その収益をFFPの収支に計上していく。
もちろんいずれのスタジアムも、売却先はクラブオーナーが所有する会社である。
繰り返しになるが、これらの行為自体には問題はない。
しかしEFLの有形資産売却に関するルールには、以下のような但し書きも付け加えられていた。「資産の売却額は、正当な市場価値に則ったものでなければならない」。
フットボールスタジアムの一般的な市場価値などというものは、この世には存在しない。例えば家を買う時には地価に合わせた相場が存在し、それを基に少しでも高く売りたい不動産屋と少しでも安く買いたい購買者の間に均衡が生じる。
しかし上述した形でのスタジアム売買は、売る側も買う側も事実上同じグループなので、このダイナミクスが消滅する。自分自身に対して鉛筆を1本売り、その売却価格を100万円だと言い張り自分は100万円の利益を得たと主張しても、記録上それが正当な取引とみなされるように。
これが今回のEFLの告発において問題視されている事象である。
各スタジアムの売却価格を見ていくとわかりやすい。
安い順に見ていくと、バーミンガムが2200万ポンド、レディングが2600万ポンドで、この2クラブはほぼ同じ価格でスタジアムを売却している。
次がアストンヴィラだが、その売却額は5700万ポンド。同じ地域にあるバーミンガムと比較しても、ここから格段に値段が上がったことがわかる。とはいえヴィラ・パークは優れた規模・地理・歴史を兼ね備えたスタジアムでもあり、バーミンガムが安すぎるのだと考えれば、まだわからなくもない。
しかしヒルズボロ(シェフィールド・ウェンズデイ)の6000万ポンドという額には、さすがに首を傾げざるを得ない。ヴィラ・パークよりも高くなる理由は、どの面からも思い当たらないからだ。
そして最後に残ったダービーのプライド・パークに目を向けると、なんと8000万ポンドである。
レディングのマデイスキー・スタジアムがこの約3分の1の価格で売却されていることを前提として考えよう。
どちらのスタジアムも比較的新しく(マデイスキーが1998年、プライド・パークが1997年にそれぞれ開場)、キャパシティも最大収容人数こそ1万人近く違うが、普段の稼働では大差ない。大きく違うものといえば、その立地条件である。
レディングはロンドン近郊のバークシャー州(ウィンザー城がある場所)に本拠を構えるクラブで、マデイスキー・スタジアムはロンドンを取り囲むM25サークル(高速道路の範囲内、イギリスの経済網の中心)に近接している。
一方ダービーはそこからかけ離れたイースト・ミッドランズのクラブだ。「プライド・パークにあって、マデイスキーにないもの」の方が少ないのである。
となれば当然、売却額が逆ならまだしも、なぜプライド・パークはマデイスキーの3倍近い値段で売られたのかという話になる。
もしこれがFFP逃れのため「だけ」に行われたスタジアム売却だったとEFLが判断した場合、8000万ポンドの収益が一気に収支から取り除かれ、ダービーのアカウントはP&Sルールに抵触してしまう可能性が高い。
マグワイア氏の試算によれば、ダービーの2018年6月までの3年間の収支からスタジアム売却額の収益を全額除外した場合、収支のトータルは5300万ポンドのマイナスになる。
昨シーズンのバーミンガムに対する調査で出された前例に照らし合わせると、これは勝ち点11前後の剥奪に相当するとみられる。ただEFLがスタジアムの売却自体は認め、その価値をより低く見積もるべきだったと結論付けた場合には、売却益の一部が会計に計上され剥奪される勝ち点が少なくなる可能性もある。
またこれとは別に、ペナルティの決定においては「緩和要素・加重要素」という概念がある。
例えば昨シーズンのバーミンガムは、処分決定前に自らの非を認めたために、本来科された勝ち点10の剥奪から1ポイント減刑され、勝ち点9の剥奪となった。これが緩和要素だ。
逆にEFLのコミッションを欺き、ルールに反したり処分を軽くしたりすることを目的とした行為が認められた場合には、違反の加重要素として最大で勝ち点9の剥奪となる追加処分が科される可能性がある。
実際にはよっぽど悪質な行為が認められなければ処分上限の勝ち点9までは行かないと思われるが、これが多くのメディアで報じられた「最大で勝ち点21の剥奪」というヘッドラインの理屈である。
【シェフィールド・ウェンズデイ】
シェフィールド・ウェンズデイもスタジアム売却を巡る問題で告発されていることは先述した通りだ。
実はダービーとウェンズデイのケースを比べると、売却額そのものこそダービーの方が高値になっているが、それ以外の面ではこちらのスタジアム売却の方が不透明な点が多いのだ。
こちらの問題も大きく分けて2つある。①取引のタイミング、②取引の条件、だ。
これらについては、以下の記事も参照されたい。
①が、おそらくダービーよりも告発が早まった主要因だ。
ウェンズデイの17/18シーズンの会計は、本来2018年5月31日までを期間として計上される予定だった。しかしこれが2ヶ月延長され、その7月31日になってもなお、最終会計の発表はなされなかった。
そして登記所の記録を参照すると、このスタジアム売却の取引は、なんと2019年7月まで完了していなかったことがわかった。登記所での手続きが遅れることはままあるにしても、1年以上遅れることは滅多にない。
さらに、ウェンズデイが2018年にスタジアムを売却したと主張しているにもかかわらず、売却先は2019年6月に設立された会社だったという話もある。つまり取引が行われた正確な日付に対して、大きな疑問が生じるのである。
②の問題も負けず劣らず奇妙なものだ。
例えば家を買う時には、通常不動産会社は購買者から最初の敷金礼金、そして購入手数料が納められたのを確認し、それから鍵を渡すという手順を取る。
しかしこのウェンズデイのスタジアム売却においては、取引の完了後も一向にウェンズデイの口座に金額が入金されず、代わりに(スタジアムを買ったことになっている)デフォン・チャンシリオーナーの会社が負う6000万ポンドの負債のみが記載されていたのだ。
そしてこの負債は、年750万ポンドずつの8年の分割払いで返済すればいいことになっていた。これは建物の売買契約としては極めて異例の支払いパターンである。
果たしてこれはしっかりとした目的のある建物の取引なのか、それともFFPの会計面の向上のみを目的とした取引なのか、疑われてしまうのも仕方のないことだ。
【反論・告発の背景】
両クラブはEFLからの告発に対し、その行動を「違法な行為である」と論じて、徹底抗戦の構えを見せている。
両者が共に挙げている論点は、「以前に一度EFLはこれらのアクティヴィティを承認している」という点である。
特にダービーの場合、彼らが行ってきた減価償却費の独自計算は今に始まった話ではなく、当然その導入に際しては多くの監査人のチェックが入っていた。
実際に、今回訴状に挙げられている「2018年6月までの3年間の合計収支」というのは、昨シーズンのバーミンガムに対する勝ち点剥奪処分の対象となった期間と完全に同じだ。
バーミンガムが収支の提出から1ヶ月近くで告発されたのに対して、なぜダービーの告発までには1年半という長い期間を要したのだろうか?
その答えはおそらく、EFL内部での変化にある。
マグワイア氏は、2019年9月にEFLの新会長に就任したリック・パリーの意向が、これらの告発に大きく関係しているとみている。
前CEOのショーン・ハーヴィーは、こういったレギュレーションの遵守にあまり関心を持たない人間だった。
その無頓着さについては昨今のEFLの歴史が雄弁に物語るところであり、それはこれまでのブログでも何回か書いてきた通りだ。そしてその結果として、ベリーのような最悪の結末を迎えるクラブまで出てきてしまったという状況の中で、パリーは9月に新会長として着任した。
プレミアリーグの初代CEOとしてフットボールリーグからの独立、経済的な発展に尽力したパリーは、(リヴァプール大学で同僚だった時期もある)マグワイア氏が様々な知り合いから集めた情報曰く、「誰よりもルールについて詳しい男」なのだという。
パリーはプレミアリーグ初代CEOのほか、リヴァプールのCEO、そして何より、UEFAのFFP監査役も務めていた経験を持つ。
紛うことなき財政面のスペシャリストである彼からすれば、ハーヴィーが残していった財政面でのカオスは、見るに堪えないものだったのだろう。ここにメスを入れることがまずは急務だと判断した可能性は高い。
今回の問題に対するそれぞれの論点は共に理解できるものである。
告発された側(ダービー、ウェンズデイ)からすれば、今まで普通に承認してきたものをなぜ今さら罰するのかという苦情が出るのは当たり前だ。
それに対してEFL側は、今まで承認してきたこと自体がおかしなことで、体制が変わった今ようやくその是正に入ろうとしているという言い分だ。これも非難されるいわれはない。
あえて誰が一番悪いかを決めるとすれば、それはあまりにレギュレーションに対してルーズだった従前のEFLボードということになるだろうが、今さらそんなことを言っても何にもならない。
今回裁定委員会が出す結論がいかなるものになるにせよ、減価償却費の独自計算やスタジアム売却による収益の計上といった馬鹿げた手法は早く禁止されるべきであろうし、それに頼らずとも各クラブが自立した経営を行っていくための自助努力を行っていく必要がある。
とはいえ、昨今のプレミアリーグ・バブルは今や2部にまで波及しており、その証拠にEFLのFFPルールに抵触しているのは例に漏れずチャンピオンシップのクラブだ。
スタジアム売却を行った5つのクラブの顔ぶれを思い出してみてほしい。いずれもプレミアリーグへの昇格を心から望んだ、野心あるクラブだった。
そんなチャンピオンシップのクラブに対して、結果的にEFLはパリーの下で急速に締め付けを強めている。それは必要な変化だが、なりふり構ってはいられない(主に外国の)オーナーたちにとっては、非常に不都合なものだ。
このことは極めて重大な一つの結果を生み出す可能性がある。
即ち、チャンピオンシップのEFL脱退=「プレミアリーグ2」の創設である。
そもそもチャンピオンシップのクラブがFFPに苦しむのは、プレミアリーグと比べると6000万ポンド以上も限度額が低いEFLのP&Sルールのせいだ。
そしてそれは、2部から4部までを一括管理している放映権の収入が、プレミアリーグのそれとは大きくかけ離れていることに起因している。
プレミアリーグの傘下に入ったところで2部リーグであることには変わりないが、それでもブランドを活かして放映権料がアップすることは間違いない。
それ以外にも多くの実入りが見込める以上、EFLが締め付けを強める限りは、その方向に議論を進めたがるオーナーが続出しても何らは不思議はないはずだ。
パリーの下でプレミアリーグが設立されたことも忘れてはならない。彼が現在チャンピオンシップの切り離しを意図しているかどうかはわからないが、パリーは冷静にクレバーな決断を下せる人物のようだ。
いずれにせよ、EFL内での運営方針に大きな変化が現れていることは事実だ。
今回のダービー、あるいはシェフィールド・ウェンズデイに対する告発は一つのテストケースとして使われ、裁定委員会で出される結論は、今後の指針を計る上での一つの指針ともなるだろう。
その先に待つ未来を我々はまだ知らない。ひとまずはただ、「第2のベリー」が出ないことを願うのみである。
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