スチュアート・ウェバー流 良いチームの作り方 - EFLから見るフットボール

スチュアート・ウェバー流 良いチームの作り方


先週、4月7日に行われるEFL Awards 2019の受賞式に先駆けて、今シーズンの各リーグ年間最優秀チームが発表された。




チーム別で見ると、最も多くの選手を輩出しているのはLeague Twoがマンズフィールドの4人、League Oneがバーンズリーの4人、そしてチャンピオンシップがノリッジの3人だ。
中でも注目に値するのは、ノリッジから選ばれた両フルバックのマックス・アーロンズとジャマール・ルイスの2人。いずれも実質デビューシーズンでの受賞となった彼らの活躍は、現在チャンピオンシップ首位を走るカナリーズの成功ぶりを如実に表す事象であり、数多くの示唆を我々に与えてくれる。


【信念】

今シーズンが始まる前、彼らの最も楽観的なファンでさえ、昨シーズンを見せ場なく14位で終えたノリッジが優勝候補大本命として4月を迎えるとは、予想だにしなかったことだろう。どちらかと言えば、ジェイムズ・マディソンを失ったことでチームが攻撃力不足に陥り、残留争いを強いられている図の方が、容易に思い浮かんだはずだ。

ところが蓋を開ければ、9月頃から凄まじい勢いで勝利を重ねたノリッジは、いつまで経っても失速することなくその華麗なフットボールを毎週のように披露。39試合を終え、総得点はちょうど1試合平均2ゴール計算となる78でリーグ首位、2位のリーズとは5ポイントの差が開いた。昇格決定は時間の問題と言っても過言ではない。

この事実だけを見れば、チームを快進撃に導いている監督のダニエル・ファルケや、今シーズンの得点王争いトップを走る24ゴールのテーム・プッキに群衆の関心は引き寄せられる。しかしもう少し詳しく内情を見ていくと、昨シーズン14位でフィニッシュした時の監督でもあるファルケや、圧倒的なスピードも強靭なフィジカルも持たないプッキを輝かせている、ある男の名前が浮かび上がる。

ノリッジ躍進の立役者、その名はスポーティングダイレクターのスチュアート・ウェバーである。


彼がノリッジにやってきたのは2017年4月のこと。当時のノリッジはリーグで2番目に高い週給総額を抱えながらも、プレミアリーグへの1年での復帰に失敗することが確実となり、そこにはまだクラブ内の混乱や危機はなかったものの、このままでは緩やかな下り坂を迎えることが目に見えていた。何か大きな変化が必要だと考えた経営陣によって、ウェバーはノーフォークへと招かれた。

興味深いことに、ウェバーは就任当時から現在に至るまで、まるでロボットのように同じようなコメントを各所で述べ続けている。それは彼の決してブレない信念、チーム作りの方向性を示すものだ。まずはその一例として、2017年4月に残したコメントを紹介する。

「私が見たところによれば、現状ファーストチームとアカデミーの間には良好な関係がないのかもしれない。同じ場所にあるのに、本当に不思議なことだね。そこを繋げるのが私の大きな役割になる。もし新しい選手を探すとしても、まずは『アカデミーにはどんな選手がいる?』と考えるべきなんだ。(中略)もしアカデミーに多くの投資をしているのならば、それを活用しなければいけないし、そのためのベストチャンスを与えるべきだ」

「関わってくれた人たちのおかげもあって、(ハダースフィールドでは)皆が繋がりを持てるアイデンティティを作ることができた。サポーターは選手たちがプレイするアイデンティティに自らを重ね合わせることができて、我々はテリアー・アイデンティティと呼んでいたが、それは即ち『ファイト』を意味していた。肉体的にではなく、全てのボール、プレッシングに挑むという意味でね。それをここでもしなきゃいけない。まだここの人たちのことはよく知らないが、それでもサポーターたちの関心を引き、彼らの興奮を呼び起こし、より若いファンを惹きつける何かを作らないといけないのは確かだ」


このコメントの中にもあるように、ウェバーはノリッジに来る前まで、ハダースフィールドで同様の職を得ていた。そしてハダースフィールドを去ってノリッジに行くという彼の選択は、実に大きな驚きをもってリーグ全体に受け止められた。何せこの時、ハダースフィールドはデイヴィッド・ヴァグナーの下で歴史的な昇格争いを演じており、ウェバーはその中でも中心的な役割を果たしていたからだ。

だからこの2か月後、ウェバーがノリッジの新監督として、ヴァグナーと同じドルトムントU23チームの監督だったファルケを連れてきたことには、さほど驚きの声は上がらなかった。もっとも、ヴァグナーはハダースフィールドのディーン・ホイル会長が直接ドイツまで出向いて連れてきた人材であるし、ファルケも「ドルトムントⅡ監督だから連れてきた」わけではないとウェバーは話す。

「不運なことに、いろんな人にただ前と同じことをやっていると思われてしまっているよ。そう言われることが多いけど、実際には本当に奇妙な偶然なんだ。ダニエルに『君がドルトムントじゃなくてバイエルンの監督だったらよかったのに。そうしたらこんなことを言われずに済んだよ』と言ったのを覚えているよ」


実際には、それは必然のことだった。ドルトムントどうこうは関係なく、ウェバーの持つ理念はドイツフットボール界が育んできたそれに高い親和性を持ち、彼の考えるやり方を遂行するためには、ドイツに目を向けることが一番の近道だったのだ。

ドイツフットボールの評論家、ラファエル・ヘーニヒスタインは、1月にハダースフィールドの新監督に就任したヤン・シーヴェルトも含めドルトムントⅡの監督が3人連続でイングランドのクラブに引き抜かれている現状を踏まえ、ドイツ人監督が求められる理由を説明している。

「ドイツの指導者は、ハダースフィールドや他のイングランドのクラブを惹き付ける要素を持っている。彼らは上層部に対して『6.7人の選手を取ってくれ。私のチームを完成させるには3回の移籍市場が必要だ』などとはおいそれと言えないような環境で指揮を執ってきた。その代わりに彼らはコーチングをする。当然スカッドの上積みは求めるが、その主なやり方は今いるメンバーから今以上のものを引き出すことだ。最大レベルの資金力を持たないハダースフィールドのようなクラブのオーナーにとっては、すぐに『希望選手リストを作った。今後何年間かでこいつらを取ってくれ』と言ってくるような監督よりも、彼らのほうがよっぽど魅力的に映ると思うよ」


これはまさに、ウェバーがノリッジの新監督を選ぶ際に重視していた条件だ。彼自身、もともとこれに酷似する考え方を持っている人間だが、特にノリッジでは、「買う」のではなく「育てる」ことが求められた。なぜなら2年前の彼らは、結果が出ないのにもかかわらず無駄に高給を貪る選手たちを多く抱え、パラシュートペイメントに頼り切った経営をしていた。近隣地域のクラブの中で唯一Aランクにカテゴライズされているアカデミーは宝の持ち腐れで、目先の成功だけを追いかけたそれまでの積み重ねの結果として、ウェバーは設備投資が後回しにされた矛盾だらけのクラブを引き継いだ。

「一貫したストラテジーなどどこにもなかった。いろんな監督、いろんな選手を、何の説明もなしにただとっかえひっかえしていただけだよ。それはショットガンを乱射しているも同然で、サポーターはクラブに対する信頼を失っていたと思う。どこに向かっているんだ? アイデンティティはどこへ行った? ってね。このクラブには、ユニフォームの色以上に象徴的なものがなかった。失われていたものがあった分、文化的な意味での挑戦は難しいものになった。『ノリッジといえばこれ!』というものを作る必要があったんだ」

(ノリッジ ダニエル・ファルケ監督)

【忍耐】

ハダースフィールドが昇格を果たし、それどころかプレミアリーグでも余裕を持って残留を決める大きな成果を残す中で、ウェバーとファルケは雌伏の時を過ごすこととなる。大がかりな補強などできるはずもなく、逆にジェイコブ・マーフィーやアレックス・プリチャードといった主力を売却せざるを得なかった。また初めてイングランドで指揮を執るファルケにとっては、冬の休み無しで46試合を戦う狂った日程など初見で攻略できるようなものではなく、成績が尻すぼみになるのも、ある意味では仕方のないことだった。

誰よりもファンのことを考えるウェバーにとって、自身とファルケの元へ向けられる彼らからの怒りは、十分に理解に及ぶことだった。古巣ハダースフィールドの躍進が、その心をさらに傷つけた。それはリヴァプール時代にラヒーム・スターリング、ウォルヴズ時代にはベニク・アフォビの獲得にも尽力してきた彼の順風満帆なキャリアにとって、初と言ってもいいほどの大きな挫折だった。一晩中眠れず、幾多もの考えごとが一日中頭をもたげ、朝6時の犬の散歩中に自分は何をしているのかと自問自答したことがあったという。

それでもなお、ウェバーは培った信念を捨てなかった。考えることをやめ、サム・アラダイスと彼の子飼いの実績ある見飽きた選手たちを呼び、手軽に昇格への賭けを行うことだってできた。「それは自分のやり方ではない」。彼はあくまでロジカルに、ひとつひとつのピースを繋ぎ合わせ、クラブに長期的な成功をもたらそうとした。

「昨シーズン、どのタイミングで我々がダニエルを解任していたとしても、サプライズとはみなされなかったと思うよ。(Skyの番組)“The Debate”でも批判はされなかっただろうし、サポーターも地元メディアも文句は言わなかっただろう。クラブがそういうノイズに耳を傾けていたら、ダニエルや私はずっと前に首を切られていただろうが、幸運なことにそうはならなかった。成功するためには、そういうプロセスを経ないといけない時もある。もし若手を使って、海外から賢い補強をして、我々が目指すフットボールのスタイルで勝つのが簡単なことなのであれば、誰だってそうするからね。人々はすぐに判断するものだけど、これは時間がかかることだ。我々が作ったわけではない問題を解決しようとしていたから、ここまでチャンスがもらえたんだ」

(ノリッジ FWテーム・プッキ)

クラブの上層部、そしてウェバー本人が貫き通した忍耐は、今シーズン、最高の形で報われようとしている。息を呑むほどに美しい後方からのビルドアップ、そして前線でのパスワークは、まさにノリッジ・シティが誇るプライスレスのアイデンティティとして、多くの人に知れ渡った。

さらに特筆すべきは、それを構成するメンバーの顔触れである。前述した「現代のスールシャール」ことプッキは夏にフリーで、エミ・ブエンディアはクルトゥラル・レオネーサから150万ポンドで獲得したいずれも安価の選手だが、これが2人ともシーズンMVP級の活躍を見せているのだから、ウェバーの仕事ぶりにはただただ脱帽するばかりだ。またマルコ・シュティッペルマン、モリツ・ライトナーといったかつてドルトムントで将来を嘱望された選手たちも、ノリッジで大きな花を咲かせようとしている。

(ノリッジ MFエミ・ブエンディア)

そしてなにより、記事の冒頭で述べたアーロンズ、ルイスをはじめとするアカデミー出身の選手たちの躍動が、ノリッジというクラブが短期間に遂げた凄まじい変貌を物語っている。

ここ20試合連続で、彼らはアーロンズ、ルイス、トッド・キャントウェル、ベン・ゴッドフリーというアカデミー出身の4人のうち、少なくとも3人以上を先発で起用している。当時はまだ自動昇格争いをしていたウェストブロムとのアウェイゲームでは、4人全員が先発したこともあった。ノリッジへの就任当時、ウェバーが嘆いていたファーストチームとアカデミーとのディスコミュニケーションは、今や見る影もない。

2月に掲載されたファンサイト “My Football Writer” でのインタビューで、様々な事柄について詳しく語ったウェバーは、とりわけアカデミー関連の話題になると目を輝かせて、インタビュアーに自身の持つ考えを説明している。


「この国には一流の、間違いなく世界を見渡しても一番の若手選手たちがいる。年代別代表を見ただけでも、U17U20のワールドカップを勝っているのだからね。一流の選手がいなければワールドカップには勝てない。アンガス・ガンやジェイムズ・マディソンといったここにいた選手たちも、近18ヶ月の間にイングランド代表に呼ばれたんだ。ただ誰かがチャンスを与え、信頼を置かないといけない。クラブとしては、そういう監督をサポートしていきたいと思っている。多少の不安定さは覚悟する必要があるし、ここに掲げている言葉だが、雑音も無視することだ。Twitterは見ない方がいい。彼らは何も知らない。とにかく一貫したサポートが必要だ」

「この国にはすべてのクラブに、素晴らしい才能を持った若手選手がいる。しかし彼らには我々が橋を架けてあげる必要があり、それが皆できていない。アカデミーで最高のプロセス、最高の施設、最高の選手を用意しても、監督が彼らをプレイさせなければ、そんなものは完全に時間の無駄だ。我々は若手選手のミスを許容する。私の大きな役割の一つは、フットボールビジネスを理解することだ。『彼はしくじった。でも若手だから仕方ない』。そしてそれを上層部、またメディアに伝える。ただ勝つためには18歳と28歳のどちらをプレイさせた方がいいかと聞けば、どんな業界でもほとんどの人が28歳と答えるだろう。つまりそれが、若手の旅路を理解するということだよ」

「私の働き方というものがあるし、ビジネスという意味では、フットボールクラブはこう運営されるべきだという信念も持っている。いろんな意見を聞き入れるが、納得できるようなものでなくちゃいけない。私だけでなく、他の人全員が共感している必要があるんだ。そうすればあらゆる意味で、チャレンジを行うことができるよ。それはイエスマンを置くということではなくて、同じやり方をできる人を置くということでもある。対戦するチームの中には、『これは我々のやり方には合わないな』という戦いをしているところもある。私は心から若手選手を信頼している。リーグ優勝できるとしても、30歳の選手で固められたチームなんか見たくない。それは私流ではない。若手が成長し、逞しくなっていくところが見たいんだ。クラブを作っていく中で中心となるのは、若く野心に溢れた人々だよ。もちろん経験も大事だから、ブエンディアがいる分だけ(アレックス・)テティーが必要なんだけどね。若手を育成していく上では、料理長からキットマン、グラウンドスタッフまで、みんなの力が必要だ。我々は全員が、その旅の中にいることを理解している。彼らはただこの環境に甘んじているような選手ではないし、うまく成長していってくれることを願っているよ」


ノリッジからローンで出された選手には、翌シーズン以降ファーストチームでの輝かしい未来が待っている。

良い例がキャントウェルだ。技術面では優れたものを持ちながらもフィジカル面が未熟だった彼は、昨シーズンオランダ2部のフォルトゥナ・シッタートへとローンに出されていた。ローンマネージャーを務めるニール・アダムズの目論見通り、多くのクラブが後方からパスを繋ぐオランダ2部のファーストチームを経験したことで、キャントウェルには自信とプロ選手としての責任感が同時に芽生えた。その結果が、今シーズンのブレイクだ。

「ジョーダン・ローズを獲得することは難しいが、ジョーダン・ローズを作ることはできる」。ウェバーが語ったこの言葉からだけでも、ノリッジのクラブ哲学を伺い知ることは難しくない。このクラブにとっての若手選手は、宝であり、財産であり、未来を切り開くかけがえのないものだ。イングランドのフットボール界が忘れかけているものが、今キャロウ・ロードに蘇ろうとしている。

この夏には、500万ポンドを投じた練習場の新たなアカデミー用施設が完成し、ノリッジのトランスフォームは最終段階を迎える。しかしまずは、そこで育つまだ見ぬヒーローたちに、プレミアリーグという夢の舞台を用意するための戦いをハッピーエンドで締め括らなければならない。

「(昇格は)今後1015年間に渡ってのクラブにとっての防波堤となる。最高の若手選手を売らずに済んだり、より多くの投資を将来したりするための助けになるはずだ。練習場も、アカデミーも、最高のものにするためにはまだまだすべきことがある。もし幸運にも上に戻ることができたら、将来どのリーグにいるかにかかわらず、未来への投資をするチャンスが生まれるだろう。それはもう、夢のようなことだね」


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