ハル・シティの快進撃が続いている。11月25日、第18節を終えた時点で降格圏23位に沈んでいたチームは、そこからのリーグ戦10試合を7勝3分で突っ走り、現在はプレイオフ圏を視野に入れる8位にまで浮上してきた。
もちろんトッテナムからの関心が伝えられるジャロッド・バワンや、ポーランド代表のカミル・グロシツキといった選手たちの活躍も、この好調ぶりを語る上で避けては通れない。
しかし、ハルの復活劇を読み解く上での最大の鍵は、53歳の監督、ナイジェル・アトキンスのパーソナリティに隠されている。
それは、彼が持つ「適応力」だ。
(ハル・シティ ナイジェル・アトキンス監督)
【練習場に広がる世代間格差】
Transfermarktのデータによれば、今シーズンのハルは平均年齢26.3歳のメンバーで構成されており、チャンピオンシップの中では上から14番目に若い。リーグ全体の平均年齢が26.6歳であることを考えれば、彼らは今のフットボール界で最も一般的な選手の年齢分布を持つチームと言えるだろう。
今から26年前といえば、1993年。日本では、今年天皇に即位される予定の皇太子さまが雅子さまとの世紀のご成婚を果たされ、イギリスでは、プレミアリーグ最初の王者、マンチェスター・ユナイテッドが誕生した年だ。
この頃生まれた世代のことを、欧米では“Millennials”(ミレニアルズ)と呼ぶ。日本で言えば、完全な「ゆとり世代」に当てはまる年齢層である。
昨今、このミレニアルズたちが仕事を持つようになり、ジェネレーションギャップという言葉が頻繁に話題に上るようになった。
職場に同居する若者と中年との間での価値観の違いが表面化し、管理職の「おっさん」はその対応に苦心している。
過度に一般化することは危険であるにしても、ミレニアルズとそれより上の世代の間に仕事に対する考え方の違いがあることは、既に多くの調査・人物によって言及されている。
ダイヤモンド・オンラインの2016年の調査では、100人中70人の20代の会社員が40代との間にジェネレーションギャップを感じたことがあると回答。
またヘイズ・ジャパンが2014年に日本国内の若者1,000人を対象として行った調査では、「就職先(転職先)を決める際に重視する点」という項目において、「人間関係が良好で楽しい職場環境」(52%)という項目が、「賃金や福利厚生などの待遇」(39%)などを抑えて1位となった。
もちろんこれは日本だけの話ではない。Prossack(2018)によるForbesの記事では、2025年には全従業員の75%がミレニアルズになるという統計が出ている中で、今日の企業はミレニアルズのニーズを満たす方向へ変化していくべきとの提言が綴られている。Prossackが挙げる条件は以下の通りだ。
- 職場内に良い社内風土を作り、良い雰囲気を保つ
- 「ミレニアルズ」と呼ばない
- すぐにバディを作り、安心させる
- 彼らの学び、成長を助ける
- 十分なフィードバックを提供する
- 成果・業績をオープンな形で認める
- ソーシャルレスポンシビリティを十分に果たす
これらは当然、フットボール界にも当てはまる問題だ。
いや、もっと言えば、フットボール界こそより深刻に捉えるべき問題である。2025年を待つまでもなく、今現在、既に練習場はミレニアルズたちが支配する場所になっており、管理職に立つ監督たちには難しい時代が訪れている。
だからこそ、リヴァプールを家族にしたユルゲン・クロップが偉大な歴史を作ろうとしている一方で、一時は時代の寵児と持て囃されたあのジョゼ・モウリーニョが、選手たちの信頼を失い、解任にまで追い込まれた。
時代は変わった。監督たちもまた、次の時代に進まなければならない。
【選手という人間を知ること】
2014年の年末、当時レディングを率いていたアトキンスは、ためらいながらもミレニアル世代の扉を開いた。かつて批判し、選手たちに注意を促したTwitterを開始したのだ。
今年1月14日の “The Sun” で、アトキンス本人が自身とソーシャルメディアの関係について語っている。
My @EFL column features @TheNigelAdkins on why he loves Twitter, @officialpompey join @OnTheBaw campaign for free female sanitary products, a 98-year-old @BrentfordFC super-fan, new #Leeds chant & a missing @LincolnCity_FC fan #EFL #HullCity #LUFC #Lincoln #Pompey @TheSunFootball pic.twitter.com/KFBkPvHnqL— Justin Allen (@justinallen1976) 2019年1月14日
「セント・ジョージズ・パークであった監督会議に出席するまで、悪いイメージしか持っていなかった。ある女性がソーシャルメディアについてのプレゼンを始めて、『誰がTwitterなんかやりたがるんだ?』と思ったね。彼女は『選手たちが何をしているか知っていますか?』と言って、ナイトクラブで撮られた写真を見せていた。『おお、こりゃダメだ』ってなったよ。それはもう、生活の中の良くない面だったからね。何枚目かにはうち(レディング)の選手も出てきて、背筋が凍った。すぐにその選手には投稿を削除するように言って、次の日には緊急のチームミーティングを開いたんだ」
その後様々な話し合いの末に、情報収集のためだけにアカウントを開くことにしたアトキンスだが、徐々にソーシャルメディアの持つ魅力に気付かされていく。
「最初はすぐにやめて、みんなにTwitterの危険性を啓蒙するつもりだった。でも驚いたことに、少しずつ良い面がわかってきたんだ。酷いコメントとかネガティブな面もあるけど、使い方さえ間違えなければ、素晴らしい交流を図ることができる。まずこれまで共にプレイしてきた仲間たちと繋がることができた。地元の報道機関をフォローしたり、新しい練習メソッドを知ったりすることもできる。地域の問題についてもソーシャルメディアを通して力になれる。ハルはヨークシャーの中で若者の肥満率が最も高い場所だから、監督が朝食に何を食べているかという写真を投稿したよ。5種類のフルーツを入れたポリッジ(おかゆのようなもの)だったね。私なりにサポーターに健康的なライフスタイルのためのヒントを示したつもりだ」
A light touch of winter snow today as it turns colder for training @HullCity Porridge for breakfast a ‘central heating’ for the body as well as fruit, nuts & a cup of tea. @PHE_uk #staywarmthiswinter pic.twitter.com/a0eM6wFKot— Nigel Adkins (@TheNigelAdkins) 2019年1月17日
「私は53歳で、選手たちよりもずっと年を食っている。それでも、時代の最先端から乗り遅れるようなことがあっちゃいけない。監督にとって重要なのは、年代ごとの選手たちが何を話しているか、そしてそれがどう作用しているかを理解することだ。なぜ彼らが1日8時間もスマホを触りたがるのか私には理解できないが、実際に彼らはそう思っているのだからね。もし悪いパフォーマンスをしてしまった時、彼らはネガティブなコメントを貰うだろうから、私はそこから立ち直るための手助けをしたい。フットボールにおいてメンタルは重要な要素だし、プレイに大きく影響してくる。人一倍注意深く見ているよ。落ち込んでいる選手がいたとしたら、それはソーシャルメディアを見て、ネガティブなコメントを深刻に捉えすぎているからかもしれない。だからそういう時、選手に手を差し伸べることが大事なんだ」
アトキンスの他に、現在チャンピオンシップを率いる24人の監督の中でアクティブなTwitterアカウントを持っているのは、ギャリー・モンク(バーミンガム)とリー・ジョンソン(ブリストル・シティ)の2人しかいない。
彼らもまた、それぞれにソーシャルメディアを通じてクラブのファンや地域、そして選手たちとの良好な関係を築いている。しかし年齢を見ると、モンクが39歳、ジョンソンが37歳と、そもそも共に選手たちの年代に非常に近く、53歳のアトキンスの異質さが際立つ。
Joining forces with the legendary James & James and the @Geoff_Hors_Foun today to help get all the presents ready at this very special time of the year. #BCFC pic.twitter.com/476a8BbdAL— Garry Monk (@GarryMonk) 2018年12月11日
Thanks for our personalised @MyCoachPad folders @TonyVanceGSY !!! A great innovation and a perfect organiser for all levels from grass roots to pro.— Lee Johnson (@LeeJohnsonCoach) 2018年9月12日
Good luck at the weekend with @GuernseyFC 👍🏻@CoachingFamily pic.twitter.com/KVnl6cfbnG
歴史を紐解けば、アトキンスは現役引退後にサルフォード大学で理学療法について学び、スカンソープでフィジオをしていた時に暫定監督に任命され、そのまま監督業を始めたという異色の経歴を持つ。
どんな時でも笑顔を絶やさず、成績が伴わない時も前向きなコメントを残し続け、昨シーズンは途中就任から、内部がゴタゴタの状態にあったハルを残留に導いた。
「適応力」という点で言えば、右に出る者はいない。
故に、選手たちからもアトキンスは高い評価を受ける。
ユルゲン・クロップの下でのプレイ経験も持つMFケヴィン・スチュアートは、 “Football League Paper” でのインタビューでこう語っている。
「監督はずっと素晴らしい。落ち着いていて、ポジティブだ。彼の僕たちに対する接し方は、彼が外から思われている通りだと思うよ。パニックになったり、何かに文句を言ったりするようなことは決してない。結果が全然ダメな時でも、彼は本当に安定している」
今はもう、期待しているからこそ、冷たく突き放す時代ではない。
決まった時間に出社し、FAXを重宝し、飲み会ではまず生中を頼む「伝統」は、もうすぐ永遠に蘇ることのない「古き良き時代」の象徴となって、過去を伝えるネットの中だけに居場所を見つけることになるだろう。
あなたにとっての「愛ゆえの行動」は、若者にとっての「いじめ」かもしれない。
ミレニアルズは理解を求めている。対話を求めている。愛を求めている。
正解は、常にアップデートされていく。そのヒントは、過去の自らの成功の中ではなく、今与えられた周囲の環境の中にある。
監督たちよ、時代に打ち勝て。
0 件のコメント :
コメントを投稿